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20.優しさ
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「はい、どうぞ」
「…いただきます」
白飯と味噌汁、鮭の塩焼き、煮物が目の前に並ぶ。
朝はパンにしたが本当はごく普通の日本食が好きで、中でも醤油と味醂で薄味に味付けのされた煮物が一番好物だった。
里芋を1つ口に入れると下の上で解けるような食感に、思わず感嘆の溜息が漏れる。
正面に座る母親に美味いよ、と一言告げれば、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「急がなくていいからゆっくり食べて、ずっとまともに食べてなかったでしょう」
「ん」
穏やかな時間が流れるなか、黙々と箸をすすめていく。
味噌汁は濃くも薄くもない丁度良い白味噌の味、鮭は塩味が効いていて美味かった。
「ご馳走様」
「はい、どうも。ちょっと待ってね、お茶飲みながらで良いから湿布替えるから」
「あー…分かった」
ひやりとした手が頬に触れ、仁科が張り替えてくれた湿布を剥がしていく。
友達に替えてもらったのかと尋ねる母親に適当に返事を返した。
ふと俺の頬の上で止まった手がさらさらと傷の上を撫でる感触がして、思わず顔を上げる。
母親は少し悲しそうに俺の方を見ていた。
「あんたの好きなように生きていいし、何も言わないけど…ちゃんと帰って来なさいよ」
「……っ…」
昭人との関係は知らないが、よくつるんでいた事は知っている。
まるで俺の昨日の行動が分かっていたかのように告げられた言葉に、俺は何も返せず俯いた。
「それだけ伝えておきたくて…変な事言ってご免ね」
それきり黙ってしまったが、丁寧に丁寧に貼り直された湿布は、母親の優しさを語っているようだった。
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