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21.決意
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湿布の張り替えを終えると、母親はキッチンに立って後片付けを始める。
俺は自分の部屋に入り、布団を敷きそのまま頭の下で腕を組んで横になった。
このままずっと部屋に閉じこもって誰にも知られずこの世から消えてしまうことができたら、どんなに楽だろうと思う。
でもきっと、アキはそんなこと望んでいないんだろう。
それに、今だって何度も消えてしまいたいと願うのに、その度に命を無駄にして欲しくないと言った仁科の言葉が浮かんで消える。
赤の他人だった筈なのにあれだけ言わせてしまったのも、そのために生きなければならないと思わされたのも、少し悔しいけど感謝もしている。
だから明日はちゃんと学校に行って、少しずつでも前に進んでみようと思った。
そういえば帰ってからまだメールを打っていなかったと、ポケットからスマホを取り出しアドレス帳を開く。
別れ際に赤外線通信で交換したアドレスは、な行の一角に「仁科孝史」という名前で新しく登録されていた。
『日曜日の予定は?』
世話になったとかありがとうとか、もう少し気の利いたことが言えると良かったのだけど、いざ伝えようとすると照れくさくて、たった一言だけを送信する。
すぐに返事は返って来て、日曜日は何も予定は無いようだった。
『日曜日は1日空いてるよ。』
『じゃあ、昼過ぎくらいに行く』
『分かった。電車分かる?迎えに行こうか』
『駅は覚えたからそっちまで行く』
そこまで会話を終えると、画面を切り机の上に置いた。
緊張していたらしい肩から力が抜けてほっと息をつくと、満腹になったのも相まって瞼が重くなってくる。
少しだけ週末が楽しみになって、俺は幾らか穏やかな気分で目を閉じた。
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