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26.影
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「―――ぅ……おい、陵」
「…んぁ…?」
肩を揺すられ目を開けると、ぼやける視界に誰かの影が映る。
寝不足で重かった頭も少し軽くなったようで、目を擦りながら身体を起こした。
「……アキ、うっせぇ」
「昭人じゃなくて悪かったな」
「あー…智宏……そうだ、何言ってんだ俺」
昼寝をするとなかなか起きない俺を起こすのは、いつもアキだった。
智宏曰く、俺が起こすより機嫌が良いとかなんとか言って。
“アキはもういないのに。”
頭では分かっているはずなのに、その言葉が言えずに眉を寄せる。
俯いた俺の目の前に、通学用の鞄が差し出された。
「昼だ、飯。ちゃんと食えよ。顔色悪過ぎ、ぶっ倒れるぞお前」
「…おう」
素直に受け取り包みを開くと、横から智宏が覗き込んでくる。
「相変わらず綺麗で美味そうな弁当だよな」
「食うか?」
「阿呆か、ちゃんと食えって言ったばっかだろうが」
智宏は購買で買ってきたのだろうパンを袋から取り出し齧り付く。
それを見て俺も箸でおかずを口に運んだ。
卵焼きからふわりと鰹だしの香りがする、母親のだし巻き卵は格別で、アキがよく欲しいと強請っていたっけ。
穏やかな昼休み、これまでは3人で一緒にいた時間だ。
やっぱりどこに行ったってアキの影は付いて回るもので、はぁっとため息を吐けば智宏の視線を感じた。
「…悪い」
「謝るんじゃねェよ。アイツがいなくて味気ねぇと思うのは同じだ」
「………おう」
智宏にもすごく心配を掛けているのは分かってる。
でもやっぱり受け入れ切れないから、もう少し…あと何日かだけ、この優しさに甘えてもいいだろうか。
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