アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
輪廻の先でもまた愛そう。Ⅴ
-
それから、数週間が経った。
「なあ、カノ」
「ん?何かな?」
窓の外を見やるカノに、話しかける。
放課後、オレとカノは教室に二人きりで残っていた。
理由は簡単、オレが呼び出したから。
「ずっとお前に…お前等に、聞きたいことがあったんだ」
お前等…カノだけじゃない、セトに、キド、マリー…みんなに。
「お前等、なにかオレに隠してないか?」
オレの質問に、ふとカノは振り返った。その口元には優しい笑みをたたえている。
「それはね、隠してる訳じゃないんだよ。ただ、シンタロー君が覚えてないだけ」
「オレが……何か忘れている?」
「そう」
「そんな筈ない」
「え?」
オレはキッパリと言い放った。
「オレは絶対に、忘れないって決めたんだ。どんなことがあっても、あいつの記憶は薄れたりなんか………」
あれ?オレは一体、なんの話をしているんだ?
あいつって誰?自殺?アヤノは自殺なんかしてないぞ?アヤノ?どうしてアヤノを忘れないって思ったんだ?アヤノは親友だろ?忘れる筈ないだろ?
何で分からないんだ?どうして自分が言ったことが分からないんだ?何で?何で?何で分からないのなにこれ気持ち悪い思い出したい忘れたくない大切だった筈なのに大好きだったのに愛してたのにオレは誰を、
「シンタロー君、落ち着いて、泣かないで」
気付けばオレは、カノに抱きしめられていた。カノの制服が濡れているのを見て、やっと自分が泣いているのだと自覚する。
「カノ……オレは、誰を愛してたのかな…………」
オレの声は、酷く掠れていた。
「大丈夫、きっと思い出すよ」
オレを抱きしめてくれるカノの腕が、とても頼もしくて。
「オレが好きだったのが……カノみたいな人だったら、良かったな………」
「………うん、そっか」
「そうだったら、オレはきっと幸せだったのに…………」
涙が止まらなくて、視界がぼやける。
思い出せない自分が、もどかしい。大切なことを忘れた自分が怖くて仕方がない。
カノは、泣きじゃくるオレの背をさすってくれた。
「焦らなくて良いよ、ゆっくり思い出せばいい。もし思い出せなくても、シンタロー君はシンタロー君だから。何も変わらないんだよ」
カノはそう言ってくれる。だけど、
「カノはそれで、良いのか?」
「え?」
カノの『目』が見たくなって、オレはカノから少し離れた。途端に消えてしまう温もりと、髪の色素と同じ茶色っぽい目。それは当たり前の色なんだけど、当たり前じゃない気がする。
「オレが思い出さなくても、カノは良いのか?」
「……良い訳ないじゃん。でもね、覚えてなくてもシンタロー君だってことは変わらないから。根本のところが変わらなければ、覚えてなくても大丈夫。
もし、シンタロー君がこれからも思い出せなければ、またこの想いを伝えるよ」
「……カノ、優しいんだな」
正直に思ったことを言うと、カノは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして…そして、笑った。
「ありがとう。
…シンタロー君、全てのことに意味があるんだ。
シンタロー君とお姉ちゃんが親友になったことも、
僕らがアヤノちゃんのことをお姉ちゃんと呼ぶことも、
エネちゃんが電脳体になって真っ先に君の所へ来たことも、
キサラギちゃんが君の初めましてに傷付いたことも、
僕がシンタロー君に逢いにきたことも、全部偶然なんかじゃないんだ。今はしがらみがあっても、きっと大丈夫。
必ず、仲直りできるから___」
大丈夫、大丈夫。カノは幾度もそう繰り返した。
そうしているうちに、オレも段々落ち着いてきた。
「…ありがとな、ちょっと取り乱しちゃって」
「うん。……あれ、シンタロー君、まだ泣いてるの?」
「あ……」
オレはどうやら泣き虫らしく、まだ涙が流れていた。
「これは、違うんだ。多分、嬉しいから泣いてるんだ」
忘れる前のオレは、カノと会ったことがあるのだろうか。
カノとの初めましてが何回目か分からないけど、片方だけが覚えているのは残酷だと思う。
…だけど、良いんだ。きっとそれが、
(オレが望んだことだから。愛を覚えていて欲しかったんだ)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 9