アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ながからむ心もしらず3=SIDE H=
-
ちゃっかりとオレの隣に腰を降ろした実のアニキに、康史さんは甲斐甲斐しく新しいカップにコーヒーを注いで、アニキに飲まれてしまった俺の換えのコーヒーと一緒に、目の前へアニキの好きなビーフジャーキーを入れた皿を出してくる。
いつまで経っても自信がないと言っているのを裏付けるように、いつまで経っても手を抜くことをしらない。
好きなもの、してほしいことをすべて把握して、自然にそれを提供する。
これじゃ、何をされても文句など言えるわけがない。
「オマエが来るなんて珍しいなァ」
暢気に長い足を組んで、ビーフジャーキーを齧りながら、アニキはオレを不思議そうに見下ろしてくる。
今は、甘栗色の髪をしているが、昔は真っ白に脱色をしていた。でも、鋭い目つきは生まれた頃から変わらない。
一度配線がちぎれてしまうと、止められないくらいの暴走をすることもオレは知っている。
長距離の仕事をやめて、今は母の店を改装してショットバーを経営している。
アニキは、ヤクザだった父親に似ているしそれ以上に危険な要素が沢山あるが、そうならないのはひとえに、康史さんのためだけのような気がする。
「ちょっと相談ごとがあって、康史さんに聞いてもらってた」
「ふうん……それも珍しいな」
腕を組んでくちゃくちゃと肉を食みながら、面白がるようににっと笑う。
「高校の時のあの子と再会したみたいよ」
康史さんは、アニキの目の前に座ってコーヒーを口へと運ぶ。
アニキは複雑そうな表情を浮かべてオレを見る。
先輩に逃げられたときに、オレは追いかけようとアニキに四国までバイクを出して欲しいと頼んだ。
あの時会えていたら、今のオレは変わっていたかも知れない。
だけど、かなわなかった。
途中でならずものにからまれて、オレが捕まり助けようとしたアニキとなんとか逃げ出して戻ったのだ。
アニキが、連れていってやれなかったことをオレに対して凄く負い目にしていたのも知っている。
「まだ……オレを好きだと…言って…」
「それで、何を悩む必要があるんだ」
不思議そうにオレを見て首を傾げるアニキの方が、本当にオレは不思議だった。
それは悩まない方が不思議ではないのだろうか。
「悩まない?」
「だってよ……オマエ、そいつのことがずっと好きじゃんよ」
ビーフジャーキーを指で引き裂き口に運びながら、何のことはないとばかりに言うアニキを、ふいをつかれたようにオレは眺めた。
一度裏切られた人を信じるのが怖くないのだろうか。
「…怖くないのか?アニキは」
「俺に怖いモンはねえよ」
相変わらずの答えに、そうだよなーと考え直し、目の前で失笑している康史さんを見返した。
「聞く相手が間違いだよ、西覇」
「そうみたいですね……」
もう一度あんな思いはしたくないキモチでいっぱいだ。
だけど、先のことなんて誰もわからない。
あんな思いをするかどうかなんてわからない……。
その可能性が強いというだけで、オレは諦めるのだろうか。
今なら、どこに逃げられても追いかけていける。
「男ならよ、スキだったら力ずくでも手に入れろ」
コーヒーをすすりながら、物騒な表情で言うアニキにオレは肩を竦めて茶化すように言った。
「アニキは力づくでモノにされたんだもんな」
「おう。この俺を力づくだなんて考える、ヤスの気合はすげえだろォ」
オレの言葉などまったく意に介した様子もなくからから笑うアニキは、本当に幸せそうだ。
誰もが恐れていたアニキを、多少の器具は使ったにしても襲おうと考えるとは、康史さんの綺麗な顔の中身はそれどおりの人ではないと思う。
「気合ってねぇ……俺なりに、必死だったんだけどね……」
康史さんも苦笑浮かべながら、愛しそうにそんなアニキを眺めている。
のろけられているだけなのかもしれないが……。
確かに、アニキにすら見抜かれているくらい長年想ってきた。
ほかに恋人と呼べるような人もつくれないくらいに。
「……そうだね…オレ気合たりてないのかな……」
「まあ、セイハはさ、考えすぎじゃねえか?頭イイからかもしれねえけどさ」
オレの肩をバシバシ叩きながら、アニキはにっと唇の端をあげて笑う。
「欲しいって思ってンなら、掴み取れよ。怖がってンじゃねえ」
耳元で囁かれて、アニキを見ると、アニキはじっと目の前の康史さんを眺めながら目を細める。
「俺は欲しいものは、絶対に手に入れる主義だ」
背中を押すように、力を込めるアニキにはオレが何を欲しがっているか、きっと…わかっている。
オレは、今でも……
あの人を欲しいとおもっている。
裏切られても…・
ずっと欲しかった…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 23