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あやめもしらぬこいもするかな =SIDE S=
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言葉にハッとして、俺は視線を西覇の背中へと釘付けにした。口許は穏やかで、嘘偽りは見えなかった。
そんなつまらない嘘などついても、俺が喜ぶくらいで彼には得はない。
キッチンに立った背中で補足するように告げる。
「2度と人と付き合おうとすら思わないくらいには、貴方を忘れたことなんかありませんでしたよ」
言葉の端々に刺みたいなものが含まれてはいたが、この際それは全て受け止める覚悟はある。
同じように他の人を考えたこともなかったが、逃げた俺と逃げられた彼とでは気持ちに雲泥の差がある。
「悪かった……」
「僕は貴方を責めているわけじゃない。人の付き合いなんて、先は見えないのが当然ですし、だったら、先に二の足を踏むなんて、勿体ないと思うだけの話です」
いちいち面倒臭い言い回しをする。
きっとこれは、俺の気持ちを軽くしようとしてくれているのだろう。
勿体ないとか、勿体なくないとか、安売りセールみたいなイメージで良くないけど、俺と再会したことをやり直すチャンスとして考えてくれているってことだ。
俺も西覇も理系なだけあって、言葉は不自由だ。
なんというか、言葉の選び方に不器用さを感じて愛しく思う。
昔は俺も変わらなかったなと思い返せるくらいには、大人になっている。
「ちょっと、嬉しすぎて、言葉がうまく出ない」
泣き笑いのように言葉を紡ぐのがやっと。
会ったら言おうなんて思ってた言葉なんか、全部頭の中から蒸発したように消えちまう。
「…………もっと、積年の恨みつらみでじわじわイジメようと思いましたが、貴方の笑顔を見たいとか思ってしまう。僕の業が強すぎる」
手を洗い冷蔵庫を物色して食材を出し始める西覇を眺めて、俺は笑う。
「ちょっと性格悪ィな。じわじわとかされたら、泣きまくりだ」
ぼそりと呟くと、西覇はキャベツを千切りにし始めながら俺を見やり、
「泣かすのは、ベッドの中でいくらでもできますしね」
性格の悪くなった表情で、俺を見やって微笑んだ。
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