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003
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五年前、突然の事故で両親を亡くし、身寄りのなかった飛香を引き取ってくれたのが七海夫妻だった。
父親の友人だったと言う二人とは血の繋がりはない。
それでも、子宝に恵まれなかった二人は飛香を本当の息子のように育ててくれた。
だが今年の夏、そんな優しい二人に子供が授かっている事が発覚したのだ。
最初は素直に喜んだ飛香だが、次第にある考えが頭を過るようになる。
子供が産まれても、今まで通りの生活が続けられるのか、と。
答えは否だ。
きっと、飛香は産まれてくる子供に遠慮してしまうだろう。
そんな飛香に二人が気を遣うのは目に見えていた。
暫くの沈黙の後、飛香は言葉にするのを躊躇うように息を吸った。
「ーーー俺、あの家を出ることにした」
「はあ?!出るって、おま…っ」
「うわっ、バカ、やめろっ!牛乳飛ばすな!」
牛乳パックを握り潰して興奮する和眞から飛び退くと、飛香は至って落ち着いた様子で腕を組んだ。
「もちろん、今すぐはムリだけど。卒業したら適当な会社に就職して、寮にでも入ろうかと思ってる」
「……それ、二人には話したのか?」
「言った。でも反対された」
「そりゃそうだろ。急に家を出て行きたい何て、七海さんたちが納得するわけねえよ」
「でも、俺が嫌なんだよ」
飛香は立ち上がると暗い雰囲気を晴らすように大きく伸びをした。
その背中に固い決意を感じたのか、和眞はそれ以上何も言わなかった。
出て行くことに未練がないと言ったら嘘になる。
本当の両親は死んでしまったが、飛鳥にとって七海夫妻は第二の両親だったからだ。
絶望の淵にいた飛香に根気良く話しかけ、手を差し伸べてくれた恩は一生忘れない。
だけど、自分がいなくなることで二人が幸せになれるなら、後悔はなかった。
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