アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
005
-
「佐々岡先輩が……
……神隠しにあったらしいんだ」
改めて聞くともの凄い衝撃を受けて、飛香は声を発することができなかった。
「俺も最近、彼女なら聞いた話なんだけどさ。同僚が一人、会社に来なくなったって言ってて、名前聞いたら、その……」
「っ大樹だったのか!?」
「ちょ、落ち着け!今ちゃんと説明するから!!」
身を乗り出して迫ってきた飛香の肩を冷静に押し返すと、和眞は乱れたシャツを整えて携帯を取り出した。
「一ヶ月前に大きな地震があっただろ?その翌日から、行方不明らしい」
「嘘だろ…それって本当に大樹なのか?」
「間違いない、と思う。写真送ってもらったんだ。ほら、これ…」
「……!!」
入社式の時に撮ったらしい集合写真が飛香の心に追い打ちをかかる。
携帯なディスプレイに笑顔でピースする見知った顔がいて、飛香はその場で放心した。
そこに映っていたのは、間違いなく飛香の知る《佐々岡大樹》だったからだ。
「そんな…、まさか」
今教えられた情報が信じられず、ブレザーの内ポケットにある携帯で大樹の番号に発信してみる。
電源が落ちているのか、通話音は鳴らなかった。
「嘘だろ…!?だって、ちょっと前までは普通に……っ」
「先輩と連絡とってたのか?」
「夏休みの時に一回だけな…クソッ、やっぱ繋がんねえ!!実家にもかけてみる」
「あ…飛香、それも多分…」
「え?」
「消えたのは、先輩だけじゃないんだ。……家族揃って行方不明だって聞いた」
「そん、な…」
ガン!!と鈍器で頭を殴られたような衝撃が飛香を襲った。
色んな事が頭の中を駆け巡り、その場に立ち尽くす。
暫く放心していた飛香だが、何かを思い出したようにはっと顔を上げた。
「……っ探さないと」
「は…!?ちょ、どこ行くんだよ!」
走り出そうとした飛香の腕を和眞が慌てた様子で掴んだ。
「離せよ!大樹を探しに行く」
「なっ、一ヶ月以上も前にいなくなった人間をどうやって探すつもりだよ!?それに、神隠しの噂は飛香も知ってるだろっ?」
「ーーーっ」
神隠しにあった人間は、二度と帰ってこない。
和眞はそう言いたいのだろう。
実際、行方不明者が見つかった例はない。
それでも、飛香はじっとしていることができなかった。
「っそんなの、信じられるか!!」
「飛香!?」
縋り付く腕を強引に振り払うと、屋上の階段を駆け下りる。
アテなどなく、周りの視線を無視してただひたすらに走った。
信号も無視して全速力で駆け抜ける飛香の脳裏に、ある日の出来事が浮かんでくる。
(一ヶ月前の地震って、まさか…)
ニッと歯を剥き出しにして、小さな子供みたいな笑顔が印象的だった。
学生時代から何も変わってなくて、何だかホッとしたのを覚えている。
(そうだ、一ヶ月前…)
大樹が消える前日に、飛香は彼と会っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 74