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007
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『それにしても、今日はあっついなー』
近くの飲食店に入るなり、冷房のよくきいた席に案内された大樹はそれでも体温が追いつかないらしく、メニュー表で顔を扇ぎ始めた。
夕方の五時過ぎの店内は早めに仕事を終えたサラリーマンが席を埋めていて、慣れない熱気で賑わう店内に呆気にとられながら、飛香は落ち着かない様子でメニューを睨んだ。
『そういや、飛香って酒強かったか?』
『未成年に飲ませる気かよ』
『んなこと言って、友達とは飲んでるんだろ?』
『つーか、アンタもまだ未成年じゃ…』
『堅いこと言うなって。お姉さん、ナマ二つね!』
爽やかな笑みで手を上げた大樹は周りのサラリーマンと馴染んでいて違和感がない。
何かを勘付いた飛香は呆れた様子で大樹を一瞥した。
『まさかこのために着てきたんじゃないだろうな』
『んな訳ないだろーが。普通に休日出勤だよ。って言っても午前中に終わってたんだけどな』
『だったら着替えて来いよ。見てるだけで暑い。クールウィズはどうした?』
『やっぱ外回りはシャツだけだとちょっとな。一旦帰るのが面倒なんで、会社の近くで時間潰してた』
『メールくれたらもっと早い時間に来たのに。今夏休み中で暇だし』
『いや、話すついでに飲みたかったし、この時間がよかったんだよ』
『おい。やっぱ確信犯かよ』
上着を脱いだ大樹は届いてばかりのビールを片手に確信犯的な笑みを浮かべた。
飛香もビールを手にすると、カチンと乾杯の合図が響く。
『じゃあ、改めて。久しぶりだな、飛香』
『別に改めて言うことじゃないだろ。まぁ、お久しぶりデス』
『うーん。おまえに敬語を使われると違和感があるよな』
『うるさい。俺だって一応、礼儀くらい覚えたっつーの』
『その割に生意気な態度は健在だな。これでも一応先輩なんだけど?』
『アンタにだけだよ。敬語使わない先輩は』
『んとに生意気だな、おい!』
『今更だろ?』
苦笑いする大樹は満更でもなさそうで、柄にもなくテンションが上がった飛香はビールを一気に流し込んだ。
胃がカッと熱くなり思わずむせ返りそうになる。
大樹が卒業してから一年以上会っておらず、たまに連絡する程度だったのが今は目の前に本人がいるのだ。
嬉しい気持ちを誤魔化すように飛香は話題を振った。
『そういえば、玲子さんは元気?』
『おまえ、まだそんな呼び方してるのか。母さんが聞いたら喜ぶだろうな』
『もう癖になってんだよ。玲子さんがこう呼ばなかったら許さなかっただろ?』
『はは、そうだったな』
『大地くんは?今年で九歳だっけ』
『ん?ああ…』
弟の話題に触れた時、それまで明るく振る舞っていた大樹の顔色が少しだけ変わった。
普通なら気付かないような些細な変化だったが、飛香はそれを見逃さなかった。
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