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家の中は二ヶ月も人が住んでいないためか埃臭く、薄暗かった。
靴を脱ぎリビングに移動すると、どこか生活感の漂う室内に懐かしさを覚える。
(誰もいないからってエロビデオ強制鑑賞させられた時もあったっけ。あの時夢中になりすぎて、玲子さんが帰ってきたことに気付かなかったんだよな…)
その後二人して慌てふためいたことを思い出し、飛香はくすりと笑った。
記憶に残るこの家は思い出に溢れていて、とても温かな場所だったのに。
今は埃にまみれて暗い印象を落としている。
それが住民の不在を表していて、飛香は何とも言えない気持ちになった。
(大樹…本当にいないのか?どこに行ったんだよ…)
一抹の不安を抱きながら部屋を物色するが、目ぼしいものは見つからない。
ただ大樹がいたという痕跡だけがあって、焦燥だけが募っていく。
それでも根気良く探していると、大樹の部屋で気になる物を見つけた。
「犬……?」
ハガキくらいの小さな紙に、金色の瞳の動物が描かれていた。
白い毛並みの犬にも見えるそれは、恐らく大地が描いたものだろう。
入院先で弟が絵を描いてプレゼントしてくれるのだと大樹は嬉しそうに自慢していた。
棚の中やベッドの下まで調べてみたが他に目星しい物は見つからず、飛香は何となく絵を手放せずにそのまま部屋を出た。
(あと探してないのは隣の…大地くんの部屋だけか)
何度も大樹の家に訪れている飛香だが、大地とは面識がなかった。
入院中の大地と顔を合わせる機会がなかったからだ。
いつしか自慢気に見せられたアルバムを思い出す。
写真の中の大地は、控えめで大人しそうな印象を受けた。
(勝手に入って、ごめん大地くん)
飛香は心の中で謝ると、何気ない仕草でドアノブに手をかけた。
その瞬間、ぞくりと電気にも似た何かが背中を駆け巡る。
(何だっ?今、急に……)
異変を感じたのはすぐだった。
周りが小刻みに振動し、地面がグラグラと揺れ始める。
立っていられないほどの大きな地震だった。
咄嗟にドアノブに縋り付いた飛香は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
廊下に置いてあった棚が倒れ、引き出しの物が床に散乱する。
やがておさまった揺れに、飛香はどっと息を吐き出した。
「びっくりした…、……?」
扉の前で脱力した飛香はゆっくりと顔を上げた。
空気が重くなり、突然別の空間に放り込まれたような違和感を覚えていた。
廊下が数秒前より暗く感じて、どっと不安が押し寄せる。
何かが変だと飛香の本能が告げていた。
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