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「誰か、いるのか……?」
自分以外居るはずのない家の中で他の気配を感じ取り、恐る恐る声をかける。
飛香はゆっくりと立ち上がると、緊張した面持ちで身構えた。
静まり返った廊下で飛香の吐息だけが響く。
ゴトンと廊下の奥から物音が聞こえた気がして、飛香は横目でそちらを見遣った。
薄暗い闇の中でも光る赤い瞳が、じっと飛香を捕らえている。
ずるっと何かを引きずるようにして動いた《それ》に、飛香は女のような悲鳴をあげそうになった。
人の形をした《それ》は、人間ではなかった。
頬まで裂けた唇からは鋭い牙が剥き出しになり、だらしなく涎を垂らす姿にぞっとする。
折れ曲がった手足は床を這い、赤黒く変色した身体から何とも言えない異臭を放っていた。
何よりその形相は鬼のように醜く、人と呼べるものではなかった。
その化け物はまるで飢えた獣が獲物に狙いを定めたかのように、徐々に距離を詰めてくる。
「あ、の……」
危険信号を感知しながらも、どこか現実味のない状況に飛香は首を傾げた。
本能が逃げろと告げている。
だが、赤いカーディガンと紺色のスカートが飛香の危機感を薄めた。
表情こそ恐ろしいが、少女のような格好をした目の前の化け物に動揺してしまう。
声をかけるのを躊躇っていると、化け物が大きく身動ぎした。
それに驚いた飛香が後ずさると、逃すものかと言わんばかりに襲いかかってくる。
「う、うわあああああああああ!!?」
今度こそ声を張り上げて叫んだ飛香は化け物をギリギリで躱すと、咄嗟に捻ったドアノブを押しやり部屋の中へ飛び込んだ。
震える手で鍵をかけると間髪いれずに扉が強打される。
(何だよあれ!?か、噛もうとしたのか!?)
大きく開かれた口が目の前を掠めていったのを思い出し、飛香はぞっと身震いした。
激しく揺れる扉から少しずつ遠ざかる。
逃げ道を探そうと身体の向きを変えた瞬間、強い風が飛香を襲った。
咄嗟のことで目を瞑り耐えていると、それはすぐに収まった。
穏やかな風が頬を撫でる。
異変を感じながら飛香はゆっくりと目を開けた。
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