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016
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写真に映っていたのは橙色のワンピースが似合う、美しい金髪の少女だった。
だが目の前で断末魔をあげて足掻いているのは、視界に入れるのも悍ましい醜い化け物だ。
綺麗だった髪は抜け落ち、白く柔らかそうな肌は変色して腐敗している。
今にも噛み付かんとして暴れるシキの姿は、写真の少女とは似ても似つかなかった。
(惨めだな。こんな姿になってまで動いているなんて)
ハオは眉を思い切り寄せると口角を引き下げた。
世界がシキに侵食され、もう数十年が経つ。
シキを掃討するために行われた戦争で世界は壊滅的なダメージを受けた。
大地の大半が枯れ、都市は廃墟となり、残った人々は追いやられるようにシェルターの中に逃げ込んだ。
今までの価値観は崩れ去り、生きるために他人の命を奪うことが当たり前になった格差社会で、文明の利器は失われつつある。
人心は荒み、常識が覆されたこの世界では、富ある一部の者だけが権力を持つ。
今回の依頼はそんな一部の人間が大金をかけて娘を取り戻そうと企んだ事から始まった。
ハオは舌打ちすると身動きのとれなくなっシキに拘束具を巻きつけた。
シキを捕らえるために開発された専用の鎖はシキの力を抑える効果がある。
「捕まえた?」
暫くするとウィルがひょこっと顔を出し、何でもなかったかのように服の汚れを叩いた。
「早かったですね。もっと手間取るものかと」
「雑魚が数で群れたってどうってことない。変異体見当たらなかったしな。また増えたら面倒だしさっさと帰ろうぜ」
「あれはいいんですか?」
顎で上を示したハオの行動で思い出したのか、ウィルは時計塔を見上げた。
それほど高くない位置で人間の男が気絶している。
風で運ばれてきた甘い香りに、ウィルはニヤリと口の端を上げた。
「あー、やっぱいいニオイ。つーか、どうやって登ったんだ?」
「さぁ。逃げていて夢中だったんじゃないですか」
「ま、いっか。じゃあハオ、キャッチよろしく」
「は?」
ハオが怪訝そうに眉を寄せたのも気にせずに、ウィルは力いっぱい時計塔の柱を蹴り上げた。
普通ならビクともしないはずの柱は強い衝撃で左右に揺れ、その振動で上に転がっていた男はハオの頭上に真っ逆さまに落ちていく。
ハオは舌打ちすると男をギリギリのところで受け止めた。
「ナイスキャッチ!」
「ウィル……」
「怒るなってば。オトリ役引き受けたんだからこれでお互い様だろ」
ウィルは気にした様子もなく、ハオの腕で眠る男を覗き込んだ。
漆黒の前髪から覗く伏せた睫毛は長く、健康的な肌から流れる血の色を見て、ウィルの喉が鳴った。
「へぇ。顔は悪くないな」
「…行きますよ。血のニオイに奴らが引き寄せられる前に」
「え、待って。こいつオレが運ぶの?」
拘束具で動きを封じられているシキを一瞥し、ウィルは恐る恐る尋ねた。
「俺は両手が塞がってるので」
「まじかよ…」
スタスタと先を歩き始めたハオの背中を恨めしげに睨み、ウィルは呆然と呟いた。
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