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夢を見ていた。
まだ両親が生きていた頃の記憶。
料理が上手くて美人の母と、優しくて威厳のある父。
そんな二人が何より自慢で、誇らしかった。
平和で穏やかな日常。
こんな幸せがずっと続くんだと、微塵も疑っていなかった。
ーーーあの日が、来るまでは。
「…………ッ!!」
ハッと目を見開いた飛香は飛び起きた。
夢から覚めた余韻で瞼が重く、霞んだ視界で周りの物を映す。
ベッドと小さな机が置かれただけの質素な部屋は無駄に空間が広く、飛香はそこにポツンと一人でいた。
「ここって……」
夢のせいか、記憶が曖昧になっていた。
一体、どこまでが夢で現実だったのか判断できない。
飛香がベッドから降りようとすると、静かに扉が開いた。
「おや。目が覚めたのだね」
「……!?」
少し離れたところにある扉から現れたのは、小さな子供だった。
額を白い布で覆い隠し、魔法使いが着るようなローブで身を包んだ少年は、腰まであるエメラルドグリーンの髪を払うと、年相応とは言えない穏やかな笑みを浮かべた。
性別の区別がつかないその可憐な姿に思わず見惚れてしまう。
「君は…?」
「僕はノエル・F・アーヴィング。気軽にノエルと呼んでくれたまえ」
「あ、ああ…」
名前の長さと思わぬ喋り口調に呆気にとられていると、ノエルはゆったりとした足取りで飛香に近づいてきた。
「アスカくん、だよね。話は聞いているよ。ナギくんが無茶をしてすまなかったね」
「…!!っじゃあ、ここは」
ーーー夢じゃなかった。
目が覚めるなり崖から落とされた気分になり、飛香は顔を伏せた。
異世界に迷い込んだのも、ヴァンパイアに血を吸われたのも、全部現実だったのだ。
そうでなければ、ノエルの存在が説明できなかった。
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