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「母さん、大地の様子は?」
時計が夜中の1時を指す頃、二階から降りてきた玲子を見て大樹が声をかけた。
ゆっくりとソファに腰を落とした玲子は、小さく吐息を漏らす。
「大丈夫。はしゃぎ疲れたのね。ぐっすり眠ってるわ」
「そう……」
大地が眠った事で、部屋の中に重い空気が漂い始める。
原因はわかっていた。
「ほんと……嘘みたいよね。先生は後数ヶ月の命だって言ってたのに……」
独り言のように呟いた玲子を、大樹は複雑な想いで見つめた。
嬉しいはずなのに、不安を隠しきれていない玲子が心配になったからだ。
心臓に重い病気を患っている大地は、入院先での生活を強いられている。
そして、長くは生きられないと宣告されていた。
「私にもよくわからないの。どうして、急に容体がよくなったのか……」
「そんなのどうでもいいよ。大地が元気になってくれた。それでいいだろ?」
「っでも、怖いのよ……。嬉しい反面、またいつ悪化するかもしれないと思ったら……怖くてたまらないの」
「母さん……」
珍しく泣きそうな声で膝を抱えた玲子を、大樹は黙って見ていることしかできない。
数週間前、いつ死んでもおかしくない状態まで大地の容体は悪化していた。
それが、急に奇跡的な回復を遂げたのだ。
信じられなくて当たり前だった。
「とにかく、今は様子を見よう。先生はもう大丈夫だって言ってたんだろ?」
「ええ……奇跡だって、驚いてたわ。不気味すぎるほど、どこにも異常は見当たらないって」
「……………」
担当医の酷く困惑した顔を思い出し、大樹は複雑な心境に陥った。
産まれた時から心臓の病気で入院生活を続けていたのに、いきなり回復する事があるのかと不思議になる。
移植手術が必要で、ドナーの順番待ちだったというのに。
大樹は不安をかき消すように頭を振ると、玲子の肩を抱いた。
「母さんはもう休んで。後は俺が片付けておくから」
「悪いわね……ありがとう」
一階の寝室まで玲子を見送ると、大樹は自室に向かった。
大地の病状について考えていたが、やがて思考を止める。
治ったのならこれ以上何も悩む必要はないと思い至ったからだ。
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