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ーーー翌朝。
何気なく囁き声の事を問い詰めると、大地は不思議そうな顔で首を傾げた。
「寝言かなあ。ごめんね、そんなにうるさかった?」
「いや、いいんだ。気にするな」
真っ直ぐに見つめてくる瞳に嘘偽りはなく、大樹は安心したように首を振った。
すると、何かを思い出したように大地が両手を合わせた。
「最近よく、狼の夢を見るんだ。そのせいかも」
「狼の夢?」
「うん!すっごい大きな狼でね、白い毛並みが綺麗なんだぁ。夢の中の僕は、その狼とお喋りしてるの。内容は覚えてないんだけど、色んな事を教えてくれるんだよ」
「狼なのに喋るのか?」
「うん!すごいでしょ?楽しくって時間なんかあっという間に過ぎちゃってさ」
「なるほど。だから最近、狼の絵をよく描いてるんだな」
「えへへ。夢を見るたびに描いてるから、日課みたいになっちゃった」
照れたように笑った大地は、描きかけの絵を指差して肩を竦めた。
「何度も見てるのに、夢の内容を思い出せないのがもったいないよ。狼の姿だけはハッキリと覚えてるのになぁ」
「夢ってのはそういうもんさ。でもそれだけ同じ夢が続くのは珍しいな」
「そうだよね。調べてみたら、あんまりいい意味じゃなかったけど」
「そうなのか?」
「うん。危険が迫ってる暗示なんだって」
大地の言葉にドキッと心臓が早打つ。
ぎこちない動きで狼の絵を視界に入れた大樹は、不安を押し殺すように微笑んだ。
「まあ、ただの夢だ。あんまり気にするなよ?」
「うん…わかった」
「大地ー?二階にいるのーっ?」
「あ、はーい!」
玲子に呼ばれて慌ただしく階段を降りて行った背中を、大樹は複雑な心境で見つめた。
大地の元気な姿を見ると、嬉しいはずなのに妙な胸騒ぎを感じてしまう。
この強烈な不安は一体何なのか。
大樹は頭に思い浮かんだ懐かしい顔に頼るように、携帯を片手にとった。
飛鳥にメールが届くのは、それから二週間後の事だった。
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