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「急に呼び出したりして悪かったな。久しぶりにおまえの顔が浮かんでさ。どうしてんのかなって」
飛香と久しぶりの再会を果たした大樹は、帰り際に名残惜しそうに振り向いた。
少し上気した頬を手で包むように覆った飛香を視界に入れる。
昔話に花を咲かせすぎて、少し飲ませすぎたらしい。
珍しくとろんと目尻を下げた飛香を見て、大樹は苦笑した。
相変わらず生意気な口をきく飛香の額を小突くと、嫌そうに、だが照れたようにはにかんでみせる。
人見知りは激しいが、慣れた相手にツンケンした態度をとるのは飛香なりの愛情表現なのだろう。
だから、たまに見せる無防備な表情に大樹はドキリとさせられた。
「……大樹」
「ん?」
「……いや。何でもない」
何かを言いかけて止めてしまった飛香を黙って見つめる。
自分の様子がおかしい事に気付いて、声をかけてくれたのだと大樹はわかっていた。
だが、この感情の揺らぎに明確な理由があるわけではなく、大樹は敢えて気付かないフリをした。
なんとなく不安が消えないだけで、今の現状に不満があるわけではない。
気分転換のつもりが、自分の煮え切らない態度が飛香に心配をかけてしまった事を大樹は申し訳なく思った。
「今度は家に来いよ、母さんが会いたがってたぞ」
「了解」
「…じゃあ、またな」
また暫く会えない日が続くと思うと寂しくなり、大樹は満面の笑みで別れを惜しんだ。
夏休み中の飛香と違って、会社勤めの大樹に時間の余裕はない。
社会人と学生の差を感じてしまい、少しだけ虚しくなる。
社会人にも夏休みがあればいいのに、と大樹は愚痴をこぼして帰路についた。
(そういや、大地ももうすぐ学校か……)
ずっと休学中だった学校に行ける事を、大地は心の底から喜んでいた。
まだ少し早いのではと玲子は渋ったが、本人の強い希望で来月から通う事になったのだ。
今まで当たり前の事ができなかった大地が、普通に学校に通えるようになった事が大樹は嬉しくてたまらなかった。
これから大地は、色んなことを経験していくのだろう。
病院の窓から見つめるだけではなく、外に飛び出して友達と遊びまわる事ができる。
机を並べて授業を受けて、みんなと同じ給食を食べて、放課後に寄り道したり、喧嘩して仲直りして、色んな事を学んでいく。
入院生活を強いられてきた大地にとって、それがどれだけかけがえのない事か、大樹はよく知っていた。
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