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思い出に浸っている間にフレンチトーストが出来上がり、香ばしい匂いがたまらなく飛香の食欲をそそった。
「いただきま……、?」
大口を開けて頬張ろうとしていたら何故か背中に違和感を感じ、飛香は恐る恐る振り向いた。
じっと長い前髪の中から食い入るような視線を送っていたのはサワだった。
キッチンに用があるのか、それともただの気まぐれか。
サワの行動の意図が読み取れずにいると、熱の篭った視線がある一点に注がれていることに気がつく。
「……食べる?」
一口サイズのフレンチトーストが刺さったフォークをサワに差し出すと、それまで変化のなかった表情が僅かに変わった、ように見えた。
一瞬だが背筋がシャキッとした気がする。
サワが躊躇いがちに頷いたのが見えて、飛香は残りのフレンチトーストが乗った皿をサワに渡した。
「………………うま」
「そ?よかった」
パァと瞳が輝いたのが何だか微笑ましくて、飛香はここにきて初めてくすりと頬を緩めた。
「……………………」
「……ん?」
再び食い入るような視線を感じてサワを見つめ返すと、停止していた動きを再開して逃げるようにキッチンから出て行ってしまった。
「何だありゃ……」
結局満足に腹も満たせないまま食料だけ奪われる形となった飛香は、サワの後を追うようにキッチンを出た。
すると、飛香が出てくるのを待っていたのか、サワが駆け足で側に寄ってくる。
少し離れた距離からぐいっと腕を伸ばすと、飛香の手に何かを握らせた。
「わ、なに!」
「チョコレート」
「え?……くれるのか?」
こくんと頷いたサワの頭に犬の耳が生えているような錯覚を見て、飛香は数回瞬いた。
予想外の出来事に言葉が見つからず、その場に立ち尽くす。
どうやら先ほどまでの態度は極端な人見知りだったらしく、飛香は気に入られてしまったらしい。
歩くと後ろをついてきて、それが親鳥を追う雛のようだと飛香は思った。
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