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歩いていると様々な景色が目に飛び込んできて、その全てが飛香の瞳には新鮮に映った。
日本で育った飛香には見慣れないものが多く、好奇心が頭をもたげる。
露店で売っているものはどれも物珍しく、飛香の目を惹いた。
「おい、あんまウロチョロするなって」
「ごめん、つい」
「外が珍しいのはわかるけど」
飛香に注意して振り向いたウィルは、フードを深く被り直すと目元を隠した。
正体がバレると色々面倒らしく、ずっと俯き加減で喋っている。
サワは念のために家を出る直前にコンタクトを入れていた。
赤い瞳が今はエメラルドグリーンに変化していて、ヴァンパイアの面影は見る影も無い。
「ここは比較的大人しいけど、治安のいい地域じゃない。オレたちみたいなガキの成りじゃ、すぐに目をつけられるぞ。特に飛香は普通の人間なんだからはぐれるなよ」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟なもんか。ここにいる連中の殆どは、他で居場所を無くして流れてきた人間なんだ。シキに家族を殺され、街を破壊された奴らが集まってるんだぜ」
「え…!?」
驚いて声を上げた飛香を、通りすがりの人々が振り返る。
ウィルは口元に人差し指を添えて「声がでかい!」と怒ると、表情に陰りを見せた。
「職を失った人間が生きていくためには、犯罪に走るか、麻薬を売るしかない。子供たちは人買いに怯えながら露店の物を盗んで暮らしてる。気が狂った連中も少なくない。一歩路地裏入れば無法地帯さ」
「そんな…」
「まぁ、こんな地域ばっかじゃねーけどな。ここはワケありの連中が多いから、オレらがこっそり隠れ住むにはちょうどいいわけ」
「……なるほど」
適当に選んだ野菜をウィルに渡すと、飛香は改めて周りを見渡した。
よく見ると、行き交う人々の表情に陰りがある。
そのせいか、活気のある風情の中にどこか寂しさを感じた。
「もし世界が平和になったら…オレたちの居場所って、あるのかな…」
「……ウィル?」
一瞬、時が止まったような錯覚に陥った。
ウィルの纏う雰囲気がまるで別人のように変わり、曇った横顔が酷く大人びて見える。
飛香が声をかけると、ウィルは何事もなかったかのように声の調子を戻した。
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