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残されたウィルは地面に伸びている男達の中に意識がある者を見つけると、何やらぼそぼそと呟いている。
そして男は喉から引き攣った悲鳴を上げると、他の仲間を叩き起こして逃げるようにその場を去って行った。
「…何言ったんだ?」
「他言しないように忠告しただけ」
「口止めしたのか」
「あんまり意味ないかもだけどなー。この辺じゃナギって有名だし。喧嘩っ早いヴァンパイアだって」
「あの連中、知っててあいつに絡んだのか?」
「たぶん。今日みたいに、こっちが下手に手出しできないのを知っててちょっかい出してくる輩も多いんだ。だからオレは、外では大人しくしてたいんだよ」
怪訝そうに眉を寄せたウィルは、ウエストポーチから無線のようなものを取り出すと、誰かに連絡をとり始めた。
(だから変装みたいな真似してるのか。意外と不便な生活してるんだな…)
ヴァンパイアが世の中に浸透していると言っても、まだまだ風当たりは冷たいらしい。
人間以上の能力を持ち、血を欲する存在を忌み嫌うのは仕方ないことだが。
周りと違うという理由で迫害されているのは飛香も同じで、ヴァンパイアに少しだけ同情する。
正体がバレた時の事を考えると、どちらにとっても生きにくい世の中だった。
「…よし、手配完了。ここはいいからもう帰ろうぜー。サワとナギのせいで無駄に疲れた」
「おれ、何もしてないけど」
「ああそうかよ。もう二度とお前とは出掛けねーよ」
「えー」
「大して不満に思ってないくせにそれっぽい返事すんな!」
漫才のような二人のやりとりを見ていた飛香は、隠れて小さく笑った。
赤い瞳じゃないからなのか、普通の少年たちがじゃれあっているようで少しだけ和む。
こうして見ると、二人がヴァンパイアである事など誰にもわからないだろう。
(でも、人間じゃないんだよな…)
ナギに噛み付かれた時の恐怖を思い出し、飛香は小さく身震いした。
赤い瞳、鋭い牙、超越した身体能力。
見た目こそ人間に近いが、彼らは確かにヴァンパイアなのだ。
ヴァンパイアという存在に疑問を抱きながら、飛香は静かに帰宅した。
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