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「フレグニール様…」
「ああ、そうだね。お喋りはこの辺にして、そろそろ地下へ案内しようか」
「!!」
ハオの催促に頷いたマティアスは不意に立ち上がると、部屋の外で控えていた執事を先導させて廊下を歩き始めた。
案内すると言いながら先を行くマティアスに後ろを気遣う様子はなく、突然の行動に焦る飛香の横でハオが目配せをして部屋を出て行く。
とにかく高そうな装飾品が飾られた廊下をひたすら歩いていると、邸には似つかわしくない古びた鉄の扉の前で執事が振り返った。
執事がマティアスから鍵の束を受け取り頑丈そうな扉を押し開けると、その先には地下への階段が続いていた。
「この先だよ。まだ調教中なんだ。煩く吠えるかもしれないが気にしないでくれ」
「珍しい生き物だと聞きましたが…」
「ああ、滅多にお目にかかれない希少種さ。僕は幸運だったよ」
マティアスは心底嬉しそうに口元を緩めると、執事から火の灯った照明を受け取りご機嫌に階段を降りて行った。
(なんか嫌な感じだな……)
煌びやかな豪邸の地下に隠された陰気臭い場所に、飛香は眉を顰めた。
湿った空気はカビ臭く、薄暗い地下は異様な雰囲気を放っている。
こんな場所に大樹がいるかと思うと、飛香は不安で仕方なかった。
「あー、いたいた。アレだよ。僕が先日手に入れたコレクションの一つさ」
「これは…」
ハオの声に含まれた微かな驚愕を感じ取り、飛香は慌てて目を凝らした。
暗闇に慣れた瞳が鉄格子の檻を見つけ、中でうごめく存在を凝視する。
(……?人、じゃない?)
灯りに照らされたのは、灰色の毛並みに金色の瞳の犬だった。
まだ小柄なところを見ると、子供なのだろう。
鋭い眼光が飛香を射抜き、檻の中の獣が低く唸る。
期待していた結果とは違い落胆する飛香の横で、ハオが興味深そうに檻に近づいた。
「狼ですか。こんな絶滅危惧種、どこで手に入れたんです?」
「闇市に出回っていたところを僕が高値で買い取ったのさ。どうやら前の飼い主が護送中にシキの群れに襲われて死んじゃったらしくてね。ほんと、僕って運がいいよね〜」
「………………」
鼻歌交じりに他人の死を喜ぶマティアスに、飛香は異様なものを感じた。
陽気な口調の裏に隠された狂気を垣間見て、ぞくっと背筋を震わせる。
ひょろっとしていて一見気の弱そうな男だが、その瞳の奥は溝川が腐ったような嫌な色をしていた。
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