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サクリファイス-人犬-3完結~R18+、腐、オリジナル
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五
一ラウンド終えたベッドの中で、女は下衆な悪態をついた。
「あのクソ犬。売春婦より始末が悪いわ」
「?」
「何人の男にヤられたと思う? 二十二人よ。なのにまだ、平気でケツでやらせてる。屑だわ」
「…」
とりあえず、曖昧に笑っておく。
ほんとは同意できない。
だって鈴がたくさんの男とヤっているのは女がそう仕向けているからだ。
鈴の意思ではない。
だがその事実を指摘して、カネモチ女と切れるのもナンだし…
だから無言でいるしかないのだった。
だがこの日、女の考えは一歩前に出た。
それはごくごく俗な亮の頭で考えても、あまりにも残酷なものだった。
「屑にはね、屑にふさわしい運命を与えなくちゃって思うの。どんな運命か知りたくない?」
「…」
「知りたいって言いなさいよ」
女は少し鼻白み、亮の耳に囁く。
「!」
あまりのことに亮は愕然とする。
「難病…」
「そ。死に至るとかからだが崩れるとか、そういう病気につながる客をとらせるの。さっそく手配手配」
独りごちてラップトップパソコンを叩き始めた女の背中に、亮はぞっとするようなものを禁じ得なかった。
「何か飲んでくる」
居たたまれない気持ちを精一杯隠して、亮は部屋を出たのだった。
中庭に面した一面ガラスの壁越しに、今、亮は鈴を見ている。
既にあの、二十二人目の男も立ち去り、中庭に放置された鈴の上にはひとひら、またひとひらと、雪が降りかかっている。
精液にまみれた股間も、もつれた髪も、鈴の美しさをいささかも損なうことはなく、かえって亮は今の自分の方が、薄汚れているように感じた。
この美しい犬に病を与えるというのだ。
頭の中はまだ迷っていたが、心の中はもう迷っていなかった。
亮は中庭に出た。
犬は首すら上げなかったが、亮はかまわず近づいて、裸の躰に自分の羽織ってきたナイトガウンをかけた。
犬は戸惑いの目を上げ、初めて亮だと気づいたが、やはり言葉は発さない。
ただ眼差しで戸惑いを問いかける。
無視して手早く鎖を解く。
錆で手が赤く染まった。
粗末な鎖。
鈴にふさわしくない粗末な…
「行こう。あの女、おまえに病気の男を宛てがう気だ」
「…」
「行こう。おまえみたいなきれいなやつが崩れて死ぬの、俺、見たくない」
「…」
「これでも俺、エステシャンだから。きれいなやつは手放しで好きなんだ」
「…」
「行くんだったら!」
強い語調を使って初めて鈴はゆっくり立ち上がり始めた。
股関節に障害のある、細身の大型犬にも似たたどたどしいやり方で、やっと半身を起こした。
本当に、ずっと犬だったんだ。
亮の胸の中で何かが痛んだ。
と。
ふと気づくと、鈴の視線が彼の後方を向いている。
「こ、これはですね…」
てっきりあの女だと思った亮は言い訳しようと振り向いたが、そこにいたのは新野だった。
「…」
三者三様の沈黙。
最初に口を切ったのは新野だった。
「私が車を出します。鈴様、私といらしてください」
「新野さん…」
新野は小さく微笑み、亮に言った。
「お互い良い職場を棒に振ることになりますね」
承知の上だと答えようとしたとき、鈴が一瞬動いた。
犬が飼い主の手を舐めるように、一度だけペロリと、亮の手を舐めたのだ。
亮がえ? と思ったとき、もう鈴は新野に抱き上げられ、玄関の方へ運ばれていってしまっていた。
そして思った。
俺はとてもたくさんのものを、一気に失うことになるのだろうなと。
そう思いながら亮は、あまり後悔していない自分自身を、ちょっと誇らしく思ったりもするのだった。
完
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