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真理呼 倉・終章7~R18腐、オリジナル、
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七
部屋は夜半には片付いたが、鈴の心はもう戻らなかった。
目線はいつも宙を泳ぎ、ちょっとした物音にもパニックを起こした。
いつも怯えていて、ソファの後ろに隠れている。
パニックがひどいときは、俺にさえ触れさせない。
あんまりだった。
えろすからは訴状が届いた。
中折が、全て自分に都合よく話し、出版社は出版社で、それを真に受けたのだ。
せめてもの慰めは、俺のパンチで中折の顎は粉々に砕け、四カ月は固形物が食べられなかろうという一事に尽きたが、俺の拳もかなりのダメージを負っており、向こうは会社や有能な法律家たちに守られているのに、こちらは全くの徒手空拳なのだった。
訳知りなやつが今さら、ありがたい事実を俺に教えてくれた。
中折は月刊えろすを刊行しているアリシマ出版の、社長の妾腹の息子なのだそうだ。
「そうとわかってたら殴らなかった?」
心配して来てくれたまりかママと日沼が問う。
「いや、殴ってたな。中折はもともとサイテーなやつだったし。今度のことが無くたって、いつかこうなってたさ」
わざわざ請け合う俺に、笑ってもいいのに、二人は混ぜっ返しもせず、ただ黙って目を伏せる。
鈴の部屋に続くドアを目で示しつつ、日沼が囁く。
「中折のしたことを…明かせませんか?」
「無理よ」
俺の代わりにまりかママが即答した。
「真理呼ちゃん、かなりマズい立場でしょ? 家出かなんかして今に至ってる。納税とかもしてないでしょうし」
「…」
「被害者は、ちゃんとした一般市民でないとバッシングされるだけなの。せめて本当の女の子なら、警察も世間も味方してくれるでしょうけど、完全性転換してるゲイのレイプ事件なんかについてくれる世論は…ないと思った方が利口よ」
「そんな…」
「そんなものなのよ」
二人のやりとりに、ますます沈んできた俺は、
「一発屋の猟奇作家もこれまでか」
嘆いたつもりはなかったのだが、日沼が妙に恐縮して、
「うちの社も、アリシマさんに資本投下して貰ってるから、あまり先生の肩持てなくて…すみません」
「おめーが謝んなくていいの。『先生』もやめやめ。俺、髪結戻るから。ふつーの髪結。お肌の手入れも出来まあす」
「ほらぁ。やっぱ先生は井上太一。鷺沢邸のケアラーさんだったのね!」
「叔父貴! それはオフレコ!」
「叔父貴?」
「じゃあ真理呼ちゃんは本当に!」
三者三様驚きに目をみはっているところへ、ふらつきながら鈴が入ってきた。
目の焦点は合っていなかったが、俺たち三人が敵ではないことはわかるのだろう、別段パニックには陥らなかった。
俺のところまでふらふらと来て、日刊紙の切れ端を示す。
尋ね人の欄。
真ん中あたりにこうあった
『父危篤。鈴戻レ。松東一党』
「おまえの親父?」
焦点の定まらない目のまま、鈴はかすかに頷き、聞き取れないくらいの小さな声で言った。
「父さんに…会いたい…」
「会わせたげるわよ。会わせたげるわよ鈴ちゃん。会わせたげるわよね、亮ちゃん?」
滝のような涙の目で、まりかママが俺を見る。
俺は頷いた。
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