アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
反吐が出る話
-
ばあさんの話は、訳がわからなかった。
興奮しているせいか、時系列がバラバラだったり、たまにひどい方言が入るので、理解できない部分も多い。
だが、根気良く話を聞いていると、日が白み出す頃に、やっと話の全容が見えてきた。
まず、俺が運ばれた場所は隣町にある古い産院だった。
治療したのは、ほぼ引退状態の産婦人科医。
この医師は、じいさん達の住む村出身だと言う。
この事からも、なんとなく想像がつく。
村ぐるみで何かを隠しているのだ。
ばあさんは、詳細をぼかしぼかし話していたが、俺が強い口調で問い詰めると、割と簡単に白状した。
俺が生まれ育った場所ではあり得ない話だが、村には古くからの伝承がある。
簡単に言えば、あれをしたら鬼が来るだとか、なになにをしなかったから災いが起こっただとか、最早、迷信と言ってもいいだろう。
さすがに、村の人達だって、今はそれを本気で信じているわけでは無いとは思う。
それでも、それを守らなくてはいけないと言う強迫観念の様なものがあるのだろうことは、容易に想像できた。
で、それがどう今回の件と関係があるのかと言うと、それは、都雪くんの家——つまり八坂家——のある場所にあった。
八坂家のある場所は、鬼門と言うのだろうか。
とにかく、古くから村では、その場所から災いが入ってくると言われていた。
そのため、代々、その場所に身分の低い者を者を住まわせ、その家族に災いを被ってもらおうと言う魂胆の様だ。
人柱みたいなものか?
それが、今回たまたま都雪くんの母親だったのだそうだ。
元々、隣町に仕事で来ていた所謂余所者と駆け落ち同然に村を出て、数年後、都雪くんのお姉さんと、都雪くんを身ごもった状態で帰って来たらしい。
もう都雪くんの祖父母にあたる人達は他界しており、村に彼女の居場所もない。
それなのに、彼女がここに戻って来た理由は甚だ不明だが、話し合いによって、もし村に居たいのであれば、その場所に住むことを条件に受け入れると言うことになったのだと言う。
俺にはよくわからないと言うか、全く理解できない。
そんな迷信を信じる気はさらさらないが、例え迷信と言われても、良くないと言われる場所にわざわざ困っている人を住まわせるなんて、常軌を逸しているとしか思えなかった。
ばあさんは、本人も了承の上だし、蔑むどころか、生活の面倒を村全体で見ていた。
そこに住むだけの恩恵を八坂家が受けていたのだと言ったが、言い訳にしか聞こえず、胸糞が悪かった。
もし、その恩恵を目当てに、都雪くんのお母さんが戻って来たのだとしても、それはそれで腹が立つ。
だが、村の人達や、都雪くんのお母さんに対して、俺が腹を立てても仕方のないことだ。
俺は、湧き上がる憤りをなんとか抑えながら、ばあさんの話を聞いた。
今は信じる人はあまりいないと言いながら、ばあさんの記憶にある限りでも、その場所に住む人間には良くない事が起こっていたのだそうだ。
生まれた子供に障害が出たり、家人がよく怪我をしたりなどなど……
だが、一番多かったのは、精神を患う者が出るとのこと。
見えない物が見えると言って、怯えたり、村中を発狂しながら走り回ったりなど、村人は、そんな狂人の姿を見て、当たり前の様に「◯◯だから仕方ない」と言ったのだと言う。
◯◯と言うのが、なんなのかは、よく聞き取れなかった。
反吐が出るとは、このことを言うのだろうか。
ばあさんが、仕切りにあの姉弟を気味悪がってたのはそう言う事なのだと理解した時、尊敬していた祖父母が一気に薄汚い人間の様に思えてきた。
そして、あの時の電話で父が優しかった事も、もしかしたら、この事情を知っていたからかも知れないと思うと、もう、誰も信用出来ないと思った。
話疲れて、ぐったりしているばあさんに対して、俺は「出てってくれ」と冷たく言い放った。
自分から根掘り葉掘り聞いておいて、勝手に怒って、酷いことを言っている自覚はあったけど、気遣う余裕などあるはずもない。
俺はカビ臭い布団を頭から被り、声を殺して泣いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
39 / 42