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彼岸花【微ホラー】
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「彼岸花ってさ、綺麗だよな」
「…え」
珀(はく)が、彼岸花の咲いている帰り道の途中、おもむろにそう言った。
その白い横顔は、夕焼けでやけに赤く染まっていて、まるで彼岸花の色を掬い取ってそのまま顔にのせたような色をしていた。
「……なに、どしたの、いきなり」
「いやあ、別に。率直な意見を言っただけだよ」
意味あり気に、意地悪く笑う、その横顔。
綺麗だ、と。思った。
「あの中で、眠ることが出来れば良いのに」
ポツリと、珀はそう言った。
その表情は、長い前髪に隠れて見えなかった。
その1週間後
珀は死んだ。
あの帰り道に咲いてた、彼岸花に埋れて。
死因は、左手首の切り傷からの出血死。
死体の傍らには、カッターナイフが落ちていたという。
つまり、珀は自殺したのだ__。
後日、警察から、珀から俺宛へだという手紙を受け取った。
ベッドに寝転がり、なんだろうと思いながら手紙の封を切って、開くと、そこには、こう書いてあった。
『いきなり死んでびっくりした?
ごめんね。
あの、綺麗な彼岸花の中で、眠りたかったんだ。
この腐った世界から、離れたかった。
なあ、知ってる?
彼岸花って、「死人花」とも呼ばれてるんだって。
今の俺に、ピッタリじゃない?
なんてったって、今や俺は死人だからね』
それはそれは、とても綺麗な字で書かれていて
短く、軽い文章の中に、珀の死に対する重みをひしひしと感じた。
そしてふと、珀が死ぬ間際に言っていた言葉を、思い出す。
『あの中で、眠ることが出来れば良いのに』
ああ
つまりは、そういうことなのだ。
珀はただ、あの彼岸花の中で、眠りたかった、ただそれだけのこと。
それ以上でも、以下でも、ない。
この腐った世界から、逃げ出したかっただけなのだ__。
手紙を閉じようとすると、紙の裏側の右下にポツンと何かが書かれているのが見えた。
そしてそこには、とても小さな文字で
『彼岸花の花言葉
「また会う日を楽しみに」』
そう、書かれていた。
「また会う日を楽しみに…って、いつになると思ってるんだよ、馬鹿」
俺はふっと微笑んで、手紙をぐしゃっと丸めてズボンのポケットに突っ込んだ。
そして俺は、おもむろにベッドから起き上がり
カッターナイフを持って、あの彼岸花が咲く場所へ、
珀が死んだ場所へ向かった。
「大丈夫
すぐ、会えるよ__。」
彼岸花_END
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