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節分1(鬼×リーマン)
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「鬼は外…福は内…」
1cm大の豆を外界へと150キロ(当社比)のスピードでぶん投げた俺は疲れ果てた声でそう呟いた。
今日は2月3日、節分の日だ。
帰宅途中に見た、楽しそうに豆まきをしている近所のちびっ子達の姿が思い出される。
果たして彼らは、こんなにも沈んだ気持ちで豆をぶん投げていたのだろうか?
…答えはNOだ。
きっと純粋に、これからもみんな幸せに暮らせるようにという願いを込めて、鬼の面をかぶったお父さんに豆をぶつけていたのだろう。
俺とは違って、ね…。
誰しもがドン引くほどに暗い表情で豆を撒いている男なんか、世界中探しても俺しかいないはずだ。
そりゃもちろん、本当なら俺だって楽しく「鬼は外ー!福は内ー!」ってやりたいよ。
でもね、大事な商談を取り損ねて半ばクビ確定状態の人間が、そんなこと出来るわけないよね。
社会人5年目にしてようやく大きな仕事を任せて貰えるようになったのに、まさかの初っ端からの痛恨のミス。
事実は小説より奇なり、とでも言うべきか。
俺はあり得ないことに、商談相手のお偉いさんのヅラが吹っ飛ぶ瞬間を目の前で目撃してしまったのだ。
部下らしき人が気を利かせ窓を開けてくれたのが人生の終わりだった。
その後はみなさんご想像の通り、いきなり吹いてきた強風にあおられ、お偉いさんの髪の毛が宙を舞ったのだ。
床にファサァ…と音を立ててヅラが落ちるまでの光景が、今でも鮮明に思い出せる。
そこから先は周囲の人間も慌てちゃって慌てちゃって…もう収集がつかなかった…。
そんな中、当の本人は金縛りにでもあったかのように身動き1つ取らずにただ呆然と落ちた髪の毛を見つめているだけだし、これでは話ができないと言われ強制的に会社に帰らされてしまったのだ。
会社に帰ったら帰ったで、もちろん烈火のごとく猛烈に叱られたし、本当に世の中は理不尽だと思った。
「はあ…」
今日の一連の出来事を一通り思い出すと、俺の心は更に沈んでしまった。
開いた窓からは冷たい風が吹き、俺の身も心も冷やしていく。
「はあぁ…ぁ…」
冷えた両手をあたためるようにもう一度深くため息をつき、窓を閉めようとしたその時だった。
「…おい」
不意に、声が聞こえた。
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