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来るべきか、どうか。
直前まで決められずにいた俺は、またしても社長の世話になってしまった。
会社で突然拉致られて。
ホールの前で放り出されて。
もうさ、頭を下げるしかない。
来て良かった。
本当に感謝。
緞帳が下りて、ホールの天井の照明が次第に明るくなっているのを仰ぎ見る。
虚脱感。
なんだよな、深雪。
おまえって、すげえ奴だったんじゃん。
・・・辞めるって言ってたっけ?
何でだよ。
辞めずに、もっと色んなもの、見せてくれたらいいのに。
見たいのに。
もっと見たい。
おまえの事。
もっと知りたい。
畜生。
なんだよ、これ。
知りたかったって、後悔してる。
・・・後悔。
・・・これから、知っていけばいいなんて、都合の良いこと、思っていいんだろうか。
期待しても、いいのか?
帰宅する人の波に乗れずにぼんやりしていると、ホール職員らしき男に声をかけられた。
慌てて帰り支度をしてていたら、よく分からないまま『STAFF ONLY』のエリアに通されて。
楽屋だ。
この乱雑さが懐かしい。
このホールには一度コンサートで来たことがあったっけ。
懐かしい、なんて、思えるんだな、俺も。
過去の全てはコンクリート漬けにして深海に沈めたつもりだったのに。
中身が変われば楽屋の雰囲気も違う。
部屋の隅から不思議な気持ちで、室内を眺めていた。
――御手洗さんが呼んでいます。
なあ、本当に?
そんな文句に、ほいほい付いて来ちまった。
阿呆かな、オレ。
会える?
ちょっとでも良い。
おまえに、会えるかな?
開け放された扉の向こう。
一際ざわめきが大きくなった廊下から、煌びやかな十二単が覗いた。
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