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アルバムをなぞる指先の決断23
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【side百目鬼】
どうしてこんなことになったんだろう。
今俺は、キングサイズの大きなベッドの隅に寝ていて、反対側の隅には見ず知らずのやたら綺麗で中性的なハーフ(?)美人が寝ている。
やたら綺麗な顔したそいつは、茉爲宮優絆(まなみやゆうき)、生っ白い華奢なそいつは、信じられないことに男で、男なのに男の俺と籍を入れる約束をした恋人だという。
俺は、物凄く混乱していた。
いつものように高校行って、いつものように朱雀の連中とつるみ、いつものように店の後片付けを手伝った。
いつもの日常だったはずなのに、寝て起きたら病院のベッドの上で、目の前には、びっくりするぐらい綺麗で可愛いハーフ(?)の女の子が、目にいっぱい涙をためて俺の名を呼んだ。
わけのわからないことに、今は俺のいた世界から12年経ってて、高校生だった俺は、もう30歳になったんだと聞かされて訳が分からず混乱した。
ばあちゃんや兄弟に会ったけど、みんな年をとっていて、俺は事故にあい記憶が抜けたのだと説明され、しかもばあちゃんが言うには、さっき泣いてた超綺麗な子が、俺の婚約者だと言う…
そんなのありえないのに…
俺は…、18年生きてきて今まで一度も女性に恋愛感情を持ったことが無い。
初めて恋愛感情を抱いたのは、親友の泣き顔を見た時だったが、親友は同性の男で、俺自身気のせいであって欲しいと願いながら、その親友とは高校進学を機に別々の道に進み会わなくなった。
もうこんなことも無いだろうと思っていたが、気のせいだと思おうとすればすれほど、気になるのは同性の男の泣き顔ばかり…
しかも、ただの泣き顔じゃ無い、自分に泣いて縋る姿が見たいと思ってしまう自分がいた。
俺の中の凶暴な何かが、好きな相手を泣かせてめちゃめちゃにしたい衝動に駆り立てる。
男に惹かれてるだけでも信じたく無いのに、泣かせたいだなんて性癖があるなんて認めたくなかった。
だが…
婚約者の茉爲宮優絆は、その事を知っていた。
ばあちゃんたちは、茉爲宮優絆を俺の彼女で婚約者だと思っていたが、それは違った。ばあちゃんたちは知らないが、茉爲宮優絆は男で、男でありながら、俺と養子縁組を組む予定の恋人だという。
しかも茉爲宮優絆は、俺の全てを知った上で恋人になったと言っていた。
ただでさえ否定したいと思っていた性癖を、俺は肯定された上に、まだ認められなかったセクシャリティーまで突き付けられ、頭がパンクしそうだ。
本当だったら暴れて叫び出したい位だったが…
茉爲宮優絆が泣くんだ…
大粒の涙を流してるくせに、なんでも無い顔して涙するんだ。
「なんで忘れちゃったの」って怒鳴られるならこっちだって訳ワカンねぇーんだよって怒鳴り返してやるのに…
俺が睨んでも怒鳴っても怖がりもしない。それどころか逆に「何が怖いの?何が嫌だった?」とか聞いてくるし、謝ってきてばっかだし…。
記憶を無くしたのかもしれなかいが、俺が30歳の神さんは俺じゃ無いって言ったら、まるでそれをすんなり受け入れて、神さんって呼ばなくなるし。
記憶がなくなって、俺に忘れられて泣いたりするくせに、ちっとも表情に出さないし、なんか貼り付けたみたいにいい人顏で接してきて、平気なふりしてどんどん顔色悪くなってるし…。
高校生だったはずの俺が、急に12年後の30歳の世界に放り出されて訳ワカンねぇーし暴れてーぐらいパニックなんだけど…
ただ一個だけちゃんとわかる…
茉爲宮優絆は、30歳の神さんのこと、すげー好きなんだなって…
俺のことなんだろうけど、俺はこいつのこと知らないし、男の恋人とか受け入れられねーけど…。
こいつだってパニックなんだろうに、俺のことちゃんと見てくれようとしてる。
30歳の神さんじゃなくて、18歳の俺の話を、俺の話としてちゃんと聞いてくれてるのは分かる。
俺、すぐ怒鳴るし感情的になるし、言葉が足らねぇってばあちゃんにも友達にも言われんのに…
こいつは、茉爲宮優絆は動じないんだ…
俺が怒鳴っても何しても、真っ直ぐ俺の目を見る。
今までこんな真っ直ぐ見つめられたことはない…
だから…
信じられないけど、認めてはいないけど…
30歳の俺が、こいつを側に置いてる理由は、何となく分かった気がした。
だって…
俺がずっと欲しかったものだ…
本当の俺を、ちゃんと見てくれる瞳。
俺だけを見てくれる瞳。
茉爲宮優絆は、それを持ってる気がした。
…。
でも、だからって…
いきなり2人きりの部屋とか、1つのベッドで寝るとかレベル高くないか?
だっていくら綺麗だってったって男だし!
俺の恋人だって言われても、俺はこいつを知らないし。
俺と神さんは別人な訳で。俺からしたら、俺の双子の兄の恋人に、兄と勘違いされて一緒に居るみたいに感覚だぜ?
周りからすれば、記憶がないだけで、百目鬼神であることには変わりないから同一人物なんだろうけど…
でもさ…
体が同じなら同じなのかよ。
中身が違ってもそれで良いのかよ…
俺は、茉爲宮優絆なんてしらねぇーし、好きでもない。
俺は、30歳じゃねぇし、ココは知らない世界なんだ。
確かに鏡を見れば、30歳の百目鬼神の顔だけど、中身の俺は高校生の18歳だし、茉爲宮優絆の知ってることは何も知らない。
俺は、茉爲宮優絆の神さんじゃないんだ。
マキ『ごめんね。君のこと、何て呼べば良い?』
茉爲宮優絆は、そう聞いた。
神さんじゃないと言う俺に対して、確かにそう聞いた。
俺は混乱してて、酷いこと言ったし、忘れられて辛いはずの茉爲宮優絆に、気持ち悪いとか男は勘弁して欲しいとか…
マキ『ごめんね』
謝んのは…
俺の方だよな…
訳のわからない混乱の渦の中、絶対寝れないと思っていたのに、俺はいつの間か、キングサイズのベッドの中で眠っていた。
それが分かったのは、良い匂いにつられて目を覚ましたからだった。
百目鬼「……甘くて美味そうな匂い……」
寝心地が悪いと隅で丸まってたはずが、キングサイズのベッドの真ん中で気持ちよく眠ってしまっていた。
匂いにつられて起き上がり、辺りを見渡すと、ベッドサイドのぬいぐるみに囲まれてるが、茉爲宮優絆の姿が見えない。
百目鬼「あれ?…」
甘い良い匂いの元が食べ物だとしたら、昨日鍋を沸かすだけで火傷するような茉爲宮が何か作ってるのかとびっくりして、状況を把握しようとキョロキョロしたら、壁掛けの時計は7時前とだいぶ早い。
こんな早くに?って思ってリビングに顔を出したら。
茉爲宮が台所に立ってた。
百目鬼「…何作ってんだ?」
マキ「あっ、おはよう♪」
茉爲宮は俺を見つけるとふわりと嬉しそうに笑う。
その笑顔に、心臓がドキリと跳ねた。
マキ「朝ごはんにフレンチトースト作ってたの♪〝君も〟食べるでしょ♪」
百目鬼「…神でいい」
昨日から保留にしていた返事を告げると。茉爲宮はキョトンとした後、何故かジワジワと赤くなった。
マキ「ぁ…えっと…」
百目鬼「なんだよ」
マキ「…じ…ん…って…呼び捨て?」
百目鬼「呼び捨てでいいよ。ってか、フレンチトーストなんて作れんの?昨日は鍋もろくに沸かせない包丁も使えなかったじゃん」
呼び捨てでいいって言ったのに、茉爲宮は何故かもじもじしながら小声でブツブツ言った後、何故か君付けで呼ぶ練習なんかしてる。
マキ「フレンチトーストは作れるよ、いっぱい練習したから」
百目鬼「…本当だ、ちゃんと焼けてる」
マキ「本当♪やった♪」
卵と砂糖に浸した食パンを、ただフライパンで焼いただけなのに、茉爲宮は随分と喜んだ。
その仕草や表情1つ1つが、いちいち心臓を煩くする。
女の子みたいな顔だからなのか…
それとも、記憶にはなくても体は覚えてるんだろうか?
マキ「えへへ♪あったかいうちに食べよう食べよう♪神…くんは…ブラックコーヒーでいい?」
百目鬼「神で良いって。うん。ブラックで」
マキ「……。了解です♪」
呼び捨てが恥ずかしいのか、いちいち顔を赤くする茉爲宮は、小動物みたいだ…。
いつもこんなんなんだろうか…
茉爲宮と〝神さん〟が迎える朝は…
男同士なのに…
どうしてこうも羨ましいと思っちまう事ばかりなんだ…。
…茉爲宮の顔がやたら綺麗なのが悪いよな…
なんか芸能人目の前にしてるみたいなキラッキラのオーラが眩しい…。
それに、その目がヤバイ…
大好きな人って瞳に書いてあるくらいうるうるの上目遣い…。
本当勘弁して欲しい…
マキ「……どぉ?うまく焼けたと思うんだけど…美味しい?」
百目鬼「あぁ、美味いよ。よく浸してあるし、美味いよ」
マキ「えへへっ♪…良かったぁ♪…」
ッ!!
あぁ…やめて欲しい…
その、ふにゃりとした嬉しそうな顔…
そんな表情で俺を見る奴…俺は知らない…
出会ったことない…
そんな可愛らしい表情…
マジで勘弁して欲しい…
マキ「もっと食べる?あーんしてあげようか?」
百目鬼「いらねぇよ。まさか普段やってんのか?」
マキ「あはは♪やってないよ♪普段は〝神さん〟が焼いてくれて僕は食べる専門♪」
百目鬼「……おい、お前フレンチトースト普段作ってないのか?」
マキ「練習はしてるよ♪、1人で作ったのは初めてだけどね♪」
百目鬼「……。初めてって…」
マキ「上手くできたでしょ?♪」
百目鬼「……」
マキ「んふふ♪、大丈夫、火傷も怪我もしてないよ♪指とか入ってなかったでしょ♪」
百目鬼「入ってたら怖いわ」
マキ「ふふっ♪なら良かった♪、僕も食べよーっと♪」
…どうしてこいつは、睨みつけても、俺の考えてることが分かるんだろう…
マキ「んー♪♪美味しい♪♪、まだ食べる?食べるなら焼くよ♪♪大丈夫♪ちゃんと焼けるから♪安心して♪」
どうして…
忘れられて辛いはずなのに
どうしてこんなに無邪気な笑顔を向けるんだろ…
…俺の(神さん)の恋人だから?
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