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ドーナツの甘み(1)
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6
「それでさ、プールってどこにあるの?」
駅前で待っていた響は、にっこりと言いました。
彼の着ている空色のTシャツの胸では、オレンジ色のブタが彼と同じくニッコリと、甘えるように龍広を見上げています。
「ボク、一度も行ったことないんだよね、プール」
「お前な……」
そのブタは、よくよく見るとデフォルメされた沖縄のシーサーらしいのです。
誰が買うんだろうかと首をかしげたくなるような、お土産用Tシャツ――彼はそれを当然のように着ています。
普段は制服なので分かりませんが、響のファッションはかなり独特なようです。
けれども龍広は何も言いませんでした。
暑くて面倒なのもありますが、それが彼に似合っていたからです。着たいのなら着ればいい。
それより、今日の目的地が不明であるほうがよっぽど問題です。
「場所分からないのに行きたいってどういうことだよ」
「龍広くんなら絶対分かると思って」
「はあ……?」
思わず眉間にシワが寄ります。
頼られたところで困るのです。龍広だってずっと夏らしいこととは無縁に過ごしてきました。
響が入りたいというから今回は特別についてきた。それまでです。
「知らないぞ、俺は」
「え?」
「プールなんて無いんじゃないか?」
「えー、行くって話してた人いたよ? どっかあるでしょ?」
「んー……」
龍広は記憶をたどりつつ、汗でまとわりつく前髪を耳の後ろへと流していきます。
梅雨の頃から伸ばし放題の黒髪は、湿気でふくらみ、熱がこもって暑い。思考の邪魔です。
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