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過去 家族 10<波留編>
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数週間後…
波留は、兄が「少し遠くに出かけるから良い子で待ってろよ」と言って出て行った後、直ぐに海咲に駆け寄った
彼は不思議そうに顔を上げ、疲れきった瞳で波留を見た
「……どうしたの?波留くん。」
ふわりと笑う海咲はまるでただの人形の様だった
「海咲さん。お願いがあります。…聞いてもらえますか?」
波留は彼の両手を取るときつく握る
「……いいよ。」
真剣な眼差しが伝わったのか、海咲は波留の手を握り返して返事を返してきた
「海咲さん、此処から逃げて下さい。…これ以上居たら海咲さんが死んじゃう。」
握り返してきた手には力が入っておらず、腕だってもう殆ど骨と皮だけだ
「……そんな事出来ないよ。…波留くんも、知ってるでしょ?雅稀がどれだけ酷いか…」
勿論、承知の上で波留は言ってる
確かに、兄につけられた傷跡なんて数え切れない程あったし、殺されかけたりもした
「解ってます。でもだからって、海咲さんが死ぬ理由なんて…ないはずです‼︎」
波留は目の前で微笑む彼に堪えきれなくなり、大粒の涙が頬を伝う
「…そうだね。でも、俺は雅稀の彼女だから。」
最初の説明で兄がそう言っていたが詳しい事は一切聞かされていなかった
「…俺ね。最初は普通に雅稀が好きだった。物静かで、頭が良くて、時折見せる笑顔が格好良くて仕方が…なかったんだ。だから、俺が雅稀に告白したの…そしたら、おっけー貰えて、一緒にご飯食べたり、遊んだり…恋人らしい事も沢山した。」
でもね。と言って、海咲は俯き涙ぐんで言葉を綴った
「…2年になった頃に雅稀は変わっちゃったんだ。…学校にも全然来なくなって、家に行ってもいつも留守で…だからこの夏休みを機会にきちんと話そうと思ったの。…でも、俺の大好きな雅稀はもう居なかった。居たのは…あの雅稀だった…」
そう、扉に立つ無心の瞳と狂気地味た笑い顔をした男
「俺…耐えたよ。必死に…。でも、痛くて…辛かった…。元に戻ってほしいって何度も願った……だから、俺さ、波留くんが来た時、心の何処かで安心したんだ。…俺じゃなくなるって……でも、いざ雅稀に突き放されると…それも辛かった。…わがままだよね。」
身体を震わせて泣き出す海咲の背中を摩りながら、波留はつぐんでいた口を開いた
「…海咲さんが、そう思うのって仕方が無いと思います。…俺も兄さんがあんなになってるなんて…思いもしなかったし、酷い事も沢山されました。…海咲さんは優しいから、兄さんの事が心配なんですよね。…でも今の兄さんと居ても幸せな事なんて一つもない。…2人とも死んじゃう運命なら海咲さんだけでも逃げて下さい。」
「…でも、俺がいなくなったら波留くんは……」
「俺にも…兄さんが何をするか、解りません…」
もしかしたら殺されるかもしれない。それでも、彼が助かるなら、兄が元に戻るならお安い御用だった…
「波留くんが殺されるかもしれないんだよっ⁉︎……今の雅稀は逆撫でしたら何をするかわからない。…俺と波留くんが1番良く知ってることじゃないか…」
「俺なら…きっと平気です。…だから、逃げて下さい。」
完全な保証はなかった
でも、どちらかが此処から逃げて起こってることを教えないと、本当に2人ともお陀仏になってしまう…
だから、波留は海咲さんを繋いでる鎖を柱の根元からなんとか切り離すと、彼を支えて玄関へと送り出した
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