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夏祭り。
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「なぁ、俺さ…いる、だ」
「ん、なに?聞こえない」
俺、浅野流季(あさのるき)と、幼馴染でスポーツ万能な綾瀬祐(あやせたすく)、クラスで人気者の多岐川遙(たきがわはるか)と女子3人で地元の祭りに来ている。
人気者の多岐川が俺の横で何か言っているけど、祭囃子と、ずらずらと道の端に並んでいる出店に群がる人の会話で、全く聞き取れなかった。
「だからさー!」
あまり仲が良いとは言えない俺と多岐川。何故一緒に夏祭りなんかに来ているのか、それは、一週間前に祐が言い出した花火大会の話しから始まった。
人と関わる事が面倒臭いと思っている俺に、友達とする花火の素晴らしさを1時間近く祐に熱く語られ、俺は堪らず頷いたのだ。
その中に、俺が一番苦手とする相手、多岐川遙が居た。
多岐川はイケメンで明るくて誰にでも優しくて、多岐川の周りはいつも人で溢れて賑やかだ。そんな多岐川と正反対な俺は特定の誰かと連む事はなく、だからってぼっちではないけれど、とにかく誰かと仲良くするのは苦手で、そんな俺を知っているからか当日まで俺は誰がこの祭りに参加するのか祐に聞かされていなかったのだ。
皆も皆で、教室では一切祭りや花火の話しなどしていなかった。
何の嫌がらせか。
よりによって一番苦手な奴と祭りに花火だなんて。祐だって俺が多岐川が苦手なの知っているくせに。
それで、さっきから何故か俺の隣に居る多岐川。その隣には女子3人。かき氷を食べながら多岐川に話しかけている。
全く聞こえないし聞くつもりもないけれど、人気者は大変だなあと思って多岐川を見ると、多岐川がこっちを見ていて目が合ってしまった。
「……」
にこにこと、女子が見たら喜ぶんだろうなと思う程、多岐川は満面の笑みを浮かべている。
すげー楽しそうだなこいつ。
「るーくんどうしたの?」
今度はハッキリと聞こえた。先ほどよりも多岐川と俺の距離が縮んでいるからだろう。
笑みを崩す事なく、多岐川の口から出てきた誰かの名前だと思われるあだ名っぽいの。よく解らないが、俺を見てるーくんと言ったから多分俺の事だ。
多岐川は俺の事を陰でるーくんと呼んでいるのか。馴れ馴れしい。
てかいつまでこっちを見てるんだ。学年でも人気な女子達が話し掛けているというのに。
「どーしたの?」
また同じ事を聞かれて、俺は外方を向いた。特に何もいう事がないからだ。別にどうもしない。
「ねえ……」
と、多岐川に肩を掴まれた所で、救世主が現れた。スッと、多岐川の手が俺の肩から離れてホッとする。
多岐川に触れられていたそこは、少しジンジンしていた。
「流季ー!買って来たから食えよ」
俺と多岐川にも買ってきたのか、玉子せんべいを買いに行っていた祐の手には3枚の玉子せんべい。その1つは半分程囓られた後がある。我慢出来なくて食べながら帰ってきたのだろう。
「サンキュ」
祐の手から玉子せんべいを受け取り、ソースも何もついていない所を囓る。せんべいだけの味が口いっぱいに広がった。
「ほら、遙も」
「ん、ありがとね」
多岐川も祐から玉子せんべいを受け取ると、バキッと半分に折って卵を挟んだ。割れ目から天かすがボロボロと地面に落ちて転がる。それを見てギョッとする俺。
「こうした方がね、卵を落とす事がないんだよ?後、ソースも垂れにくいから服を汚さないよ」
ああ、それで。せんべいを割ったのか。
何度か玉子せんべいの卵を落としている人を見た事がある。俺も一度、黄身を落とした事があって、凄くショックだった。
「やってみなよ」
そう言われて、恐る恐るせんべいを半分に割った。
「「「あ」」」
見事、俺と祐と多岐川の声が重なった。せんべいを割った反動で、卵が飛んで行ったのだ。
「……落ちたじゃんか…」
ボトリと地面に落ちた俺の卵。卵がなければ玉子せんべいの意味がない。
「俺のと交換しよっか!」
放心状態でいた俺の手から卵のない玉子せんべいを多岐川が取って、開けっ放しの俺の口に多岐川の玉子せんべいが突っ込まれた。
「…ん」
「美味しい?」
じわりとソースの味と、卵の匂いが口に広がって、俺はコクリと頷いていた。
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