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夏祭り2。
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「何だよお前ら、いつの間に仲良くなったんだ?」
怪訝な顔をして祐が俺達を交互にみる。別に仲良くなったわけではない。玉子せんべいを譲ってくれた多岐川には感謝してるけど。
「前から仲良いよ、俺達」
「あ、は?」
いきなり仲良し宣言する多岐川に危うく玉子せんべいを落とす所だった。何言ってんだこいつは。
「へえ、そうだったんだ?流季。なんで俺に何も言ってくれねんだ」
「……」
言うも何も、仲良く…ないし。
「おい、流季?」
賑わう皆の声を掻き消す様な祐の声に驚いて肩が揺れる。
「あ、ああそうだよ。ごめんな、何も言わなくて。ほら、俺って群れるの苦手だろ?だからさ、その」
あー、何を言っているんだ俺は。全然仲良くないし真面に話した事もないのに。何で多岐川の嘘に付き合っているんだよ。
「いや、謝んなって!良かったじゃねえか。流季は近寄り難い雰囲気出まくってるからなあ。多岐川みたいに誰彼構わず人懐こくしてれば絶対モテると思うんだよ俺は。多岐川と仲良くなってたんなら心配いらねえな」
「祐、誰彼構わずって…たらしみたいな言い方やめてくんない?」
あ、それ俺も思った。でも…見方によってはそう見えるのかもしれない。多岐川は人見知りが無くて誰にでも話し掛けている。全校生徒が皆友達ってわけではないだろうけど、俺の知る限りでは多岐川を知らない奴は居なさそうだし同学年だけでなく上級生とも仲が良い。男女問わず。
なにをどうしたらそこまで人と仲良くなれるのか。別に羨ましいとかはないけれど、将来社会に出た時、こういう奴がトップに上り詰めるんだろうなと思った。俺は平社員でコツコツ仕事をして普通に平凡な暮らしを送るんだと目に浮かぶ。
俺と多岐川の世界が違う。
「えー?そうだったの?知らなかったよ流季くん私達とも仲良くしよーよ!流季くんと話したいと思ってたんだー!ねぇ?智香子に理沙!」
「うんうん!」
「そうそう!浅野くんて近寄るなオーラが出てるっていうか、話し掛けるなって感じだったからね」
俺達の話しを聞いていた女子達が俺と多岐川の間に入ってきた。思っていたより、良く解ってるじゃないか。俺は出来る事なら人とあまり関わりたくないから、自分から話し掛ける事もないし、何もない時の休み時間とかはほぼ寝ている。そうしていれば、自然と誰も寄り付かなくなった。
入学当初は周りが友達作る事に必死でたくさん話し掛けられたけど、正直、疲れるだけだ。
祐は親同士も仲が良いから、腐れ縁で居るのが当たり前の存在になっているから何とも思わない。祐との距離感が一番好きだ。必要以上に絡んで来ないから。
「彼女達がそう言ってるよ?るーくん」
友達だと言ったからか、俺の腕に多岐川が自分の腕を絡めてきた。違うと言わなかったからにはやっぱり友達っぽくしなければいけないのかなと、俺はとりあえず笑って見せる。
久々に、祐以外に笑った顔(作り笑いだけど)を見せたなぁとどうでもいい事を考えながら、残りの玉子せんべいを口に入れた。
うん、玉子せんべいうまい。誰がせんべいにソースとマヨネーズと天かすと卵を乗せるなんて考えたのだろうか。
「浅野くん、笑っていればいいのにー!」
「うんうん、爽やか!」
「…どーも」
せんべいの粉を払い、彼女達を見る。
こういう時、俺はどうすればいいのか分からない。嘘ではなさそうな彼女達の言葉と笑顔。隣で嬉しそうに笑う多岐川。
悪い気はしないけれど、これからが大変そうだなって思うと、これ以上は近付かないで欲しい。多岐川みたいに上手く人と付き合う事が出来ないから。何を話したらいいのか、何をどうしたらいいのか、俺には分からない。
「よし!そろそろあそこいこうぜ!!」
「行こう行こう!」
祐の言葉に、皆が声をあげる。片手にぶら下げている花火の入った袋を見て、俺は深い息を吐いた。
まだ祭りは始まったばかり。
俺は、今日だけ多岐川と友達でいられるだろうかと、空を見上げた。
ボンッと大きな音を立てて、始まりの合図が真っ黒な空に大きく花開く。
キレイだなぁと見上げていると、誰かに手を握られ、その手は熱く、少し汗ばんでいた。
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