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花火。
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神社に行くまでの間、いくつか食べ物を買っていった。神社に着くと何人か先客が居て、赤や青に染まる空を見上げている。
毎年上がる花火があるというのに、俺達は自分達で持参した花火を石畳の上に広げた。用意された花火は全部手持ちの花火。打ち上げは祭りの花火があるからと、買わない事になっていたからだ。
「俺バケツに水入れてくるな」
そう言って、祐は神社の隣りの水場に走って行った。皆は花火の袋を開け、バラバラと広げる。
「ロウソクロウソク、あ、あった」
「はい、ライター」
火の担当は俺。ずっとポケットに入れていた親父のライターは少し熱くなっていた。それを多岐川に渡すと、ロウソクに火が灯る。溶けた蝋を垂らし、その上にロウソクを立てた。
「はーい!水持ってきたぞ」
「じゃあやろーか。皆好きな物取ってよ」
多岐川の声で一人ずつ花火を手に取り、俺も赤と青のシマシマの花火を持って火をつけた。先端の紙が燃えてパチパチと音がなる。シャーと、青色の花火が噴き出した。
俺達の周りには小さな花火。空には大きな花火が上がっている。高校生で、皆で花火をする日が来るとは思いもしなかった。殆ど話した事のない人達。それでも彼等は笑って、楽しそうに花火をしながら空を見上げていた。
皆、何を思って今ここで花火をしているのだろう。無邪気に笑う女子達。花火を振り回す祐。それを危ないと止める多岐川。
悪くないと思った。
高校生活、一度くらいこんなことがあってもいいなって。
「…キレーだね」
「うん、キレイだと思うよ」
いつの間にか俺の隣りに座っていた多岐川。自然と言葉を返す事が出来た。
「ちょっと違うかなー」
「……何が?花火の事だろ?」
そう言うと、ちょっと困った顔で俺を見る。何なんだ一体。そんな顔されたらどうすればいいのか分からない。
「ね、その眼鏡…取って見せてくれないかな?」
「無理。全く見えなくなるから」
「じゃあさ、前髪ピンで留めていい?」
「あ、花火消えた。新しいやつ取ってくる。多岐川もいるか?」
「…え、あーうんお願いするよ」
眼鏡とか前髪とかなんだ?そんなにうっとおしそうに見えるのだろうか。でも、今まで祐にそんな事言われた覚えもないし。前髪だってそんな長い訳じゃないんだけど。
あ、でも昔は眼鏡掛けてなかったな。前髪も、姉が勝手に結んで遊んでいたっけ。
「何考えてんのかわかんね。あ、花火…これしかない」
何で線香花火は残ってしまうのだろう。確かに他の花火に比べれば地味かもしれない。でも俺は、この花火が好きだったりする。
昔、俺がまだ幼稚園に居た時の時の事。
近所に俺と同じ年くらいの男の子が居た。その子はたった一年で俺の住む街を離れて行ってしまったけど、親に見張られながら二人で花火をした事を今でも覚えてる。
その子は長い花火より、線香花火が好きだと言っていた。小さな明かりを灯す丸い花火。その花火を見て嬉しそうに笑う男の子に、俺は多分恋をしていたんだと思う。
あの子が街を去って凄く悲しかった。小さいながらも祐が側に居て慰めてくれたけど、親が頭を抱える程に、俺は悲しくて泣きじゃくっていた。
彼は何故、なにも言わずに去ってしまったのだろう。…まあ、今考えても仕方ない事だ。花火持って行かないと。
線香花火を手に取り、多岐川の所に向かう。俺の気配を感じ、振り向いた彼は俺の手を見て、
「線香花火、好きなんだよね。他のどんな花火より」
そう言ったから、心臓が跳ね上がった。花火を落とすんじゃないかと思った。
「小さくて地味に見えるかもしれないけど。知ってる?線香花火のジンクス」
「は、花火にジンクス?」
「うん、線香花火の火が落ちずに消えれば願い事が叶う。火が落ちてしまえば願い事は叶わないっていうの」
「へー、そんなのあるんだ?」
「俺ね、昔線香花火にお願い事をした事があるんだ。……いつかまた、るーくんに会えますようにって」
「あ……」
今度こそ、俺の手から花火が落ちた。
多岐川があの男の子だったのか?確かに髪の色は似てるけど顔が一致しない。
そりゃそうか。もう何年も前の話だ。でも、一番苦手とする多岐川が初恋相手だったと言うのか?
そんな…どうしよう。何で今になって、心臓が煩いんだ。
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