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ーー式では、予想通り白組が勝利し、俺たち赤組は約60点もの点差をつけられ、見事敗れた。
体育祭は最後まで盛り上がることはなく、そのまま静かに幕を閉じるのだった。
………
…
ーー
「野上~…暑い、死にそう」
「我慢しろ、まだ7月だぞ」
「もう7月だろ!!今暑くなくていつ暑いんだよ!」
「…今でしょ」
「~古いっっ!!」
…行事が終わると、季節はすぐに夏に切り替わった。
べた~と高藤は俺の机に顔を横にしてつけて、暑いー暑いーと繰り返し唸っていた。
高藤の額から汗が流れ、代謝の良い奴だ、とか思いながら俺は肩で息をする高藤を見ていた。
「野上~何でこの学校にクーラーというものはないんだー…」
「…さぁな。…恐らく費用がそこまでまわらないからだと思われますが?」
「なんでだー…何でまわらないんだー…俺がこの学校のクーラー代くらいパパっと出して…」
…おいおい。
「あーはいはい、まわってないのはお前の頭だな?よく分かったから、しっかりしろ高藤」
ポンと頭に手を置くと、うーと高藤は唸った。
はぁ…とそんな高藤を見て息をつくと、雛原がやってきて声をかけてきた。
「何してるの、高藤死んでるけど」
「さぁ…、暑いのが耐えられないんだと」
言うと、あぁ…と言って雛原は苦笑した。
すると、突然高藤がバッと起き上がって席に座る俺をじっと見つめてきた。
「、なんだよ」
?を浮かべて見返すと、高藤の顔が近づいて、俺は目を開き体を座ったまま後退した。
「…高藤?…おい、どうした?気でも触れたか?」
後ろへ身をずらしたまま驚いたように尋ねると、高藤は暑さで赤い火照った顔をしてじっと俺を見た。
「…野上…暑い…暑いんだ…俺…」
「い、いや…それはもう何度も聞いたか」
「野上…耐えられないんだ俺…もう、俺…俺…」
「…」
……はぁ?
と、また顔を寄せてくる高藤。
「ーちょ、近い、近い!…高藤!」
必死に言うも高藤は聞こえていないのかぼうっとしてどんどん迫る。
「おい…コラ、いい加減にしろ、正気に戻れバカ!!」
「…野上、」
「ーーおいって!!」
クラスの女子が好奇の目でこちらを見て囁く。
…意味が分からない、何がどうしてこうなって…
…ス、
と。
目の前に、綺麗な白い手が不意に映り、それまで見えていた高藤の顔がふっと消える。
「……高藤。駄目だよ、…そういうことしたら」
顔を上げると、雛原が俺と高藤の顔の間に自分の手をやってにこやかに見下ろしていた。
ーー
「あ~これは熱中症かなぁ、多分」
休憩時間、保健室へ高藤を連れていくと女の若めの先生が一言そう言った。
「熱中症…ですか、」
「うん~、顔赤いし朦朧としてるみたいだし、さっき熱計ったけど風邪ってわけじゃないみたいだし」
その言葉にがくっと肩を落とす俺。
熱中症って…高校三年にもなって何やってんだ、こいつは。
ぼーっとして椅子に座る高藤を見て、俺はため息をついた。
「氷水渡すから、とりあえずそれで授業頑張って?お茶飲んで水分補給もして」
「すみません…」
高藤は言われた指示に素直に頷いて、氷水をもらって席を立った。
「ありがとうございました、失礼します」
「あぁいいのよ~。それより、その男の子よろしくねー?君、しっかりしてそうだし、ちゃんとついててあげてね?」
……え。
ガララ…ピシャッ
…ついててって。
「…」
「…野上」
ビクッ
不意に教室へ帰る途中、赤い顔をしてこちらを向き歩いていた足を止める高藤にびくりとする俺。
「な、何だよ、どうした?熱いのか」
言うと、フルフルと首を横に振る高藤。
…じゃあ何だって言うんだよ…。
そう思ってシワを寄せて頭を悩ませる俺に、高藤はぼうっとした様子で口を開く。
「…野上、俺…聞き忘れてたんだ、けど…」
「…は?」
唐突に言ったその言葉に俺は更に眉間にシワを寄せる。
「……ほら、お前、…告白されたじゃん。机に、手紙、入ってて…」
すると、言われたそれにあぁと意味がわかって頷く俺。
と、高藤は次いで、どうなったんだ?と、俺を見て尋ねてきた。
俺は一瞬目を開いて、こちらを見つめる高藤を見た。
「どうって…別に、何も…」
言うと、高藤は俺をじっと見てから目を反らしそうか…と呟いた。
「じゃあ断ったんだ?…」
「…まぁ」
「…付き合ってないんだ?」
「まぁ…」
そう言うと、高藤は暫し無言で床を見つめ、俺に視線を上げ向けた。
そうして近づく高藤に、俺は瞳を微かに動かすしかできなかった。
トン…と高藤のその大きな体が俺の肩にのしかかるようにして体を預けてきて、俺は慌てて足に体重をかけ力を入れた。
耳にかかってくる高藤の息は、熱かった。
「高藤…」
「……」
「…本当、…大丈夫か?…お前」
「…」
高藤は、何も返事をしなかった。
そのとき、側にあった階段から人が降りてくる音がして俺は高藤の体を支え持ったまま反射的にそちらへ顔を上げた。
そこに姿を現した人物に、俺は少し目を開いた。
…そいつは、無表情にしていた顔を俺たちを見た途端、一瞬驚くようにして凝視し固まらせ足を立ち止まらせた。
相変わらず長い脚をして綺麗な顔立ちをして、そいつは俺たちを見つめていた。
…体育祭のあの日以来、こうして彼に会うのは初めてだった。
教室にまた来て呼び出しをくらうかも、と思っていたが…彼は来なかったから。
もし来られたら雛原に嘘がばれると内心気が気でなかったが、来ないは来ないで逆に疑問だった。
もしかしたら、もう俺とヤったからあの脅しは破棄になったのだろうか、とか、
もしかしたら他に、もう違うターゲットでもできたのだろうか…とか。
…ーーけれど、もういい。
そんなことでもう悩む必要はない、焦る必要はない。
今、会えたのだから。
…いま、彼に全て聞けば良い。
今、はっきりさせればいいー。
「…お」
「……どういうことですか」
……
「え…?」
口を開こうとすると、言葉を重ねられ遮られた。
こちらを射るような目が、いつの間にか俺を見つめる。
高藤を支える腕に、少し力が入った。
……湯馬は、その俺の手をじっと見据えた。
耳にかかる高藤の熱い息に、こちらへ近づく湯馬に、俺は心臓を揺らした。
コツ…とおとを立て少しの距離を空けて立ち止まった湯馬に、俺は目を合わせた。
近い湯馬の目は、一瞬潤んでいるように見えた。
「…この人って、先輩の友人じゃないんですか?」
暫くして湯馬がそう口を開いて、え?と俺はシワを寄せた。
「…友人だ。当たり前だろ、何意味の分からないことを言ってるんだ」
言うと、湯馬は一瞬の間を空けて肝に落ちないような顔をして、俺を見つめた。
「…意味の分からないこと?…言っているならあなただ、俺じゃない」
その言葉に、俺は更に眉間にシワを寄せる。
「何?…」
「だって…何ですか今のこれは。…誰がどう見ても、ホモのカップルとしか思えない…。…あなたは、他に男がいて、この人とも付き合ってるんですか…?」
それにムッと睨むようにして湯馬を見る俺。
「ふざけるな、俺をなんだと思ってんだ。二股するほど、俺は最低な人間じゃない、少なくともお前みたいに脅しつけてくるような卑怯な野郎じゃないね」
「ーっ!、」
すると、途端眉をぴくりとさせ明らかに怒りの表情を見せる湯馬。
「…分かってるんですか、分かってるんですか…?権限を持ってるのはあなたじゃない、俺だ」
「ー知ってるそんなこと。だから今脅されていると言っただろ」
「…だったらあんまり俺を怒らせないで欲しいな。…そういう反抗的な態度は嫌いじゃないですけど、度を過ぎると……俺本当に何するか分かりませんよ」
……湯馬の目は、俺の奥の瞳を刺すように見つめた。
ーーそうして予鈴のチャイムが鳴って、俺は湯馬から目を反らした。
「じゃあ行くから…俺らは」
朦朧としている高藤を起こさせ言うと、俺と高藤は湯馬の横を通り過ぎるように歩いた。
すると湯馬は、過ぎた瞬間俺の腕を掴んだ。
「ーな、」
「今日の放課後、」
「……え?」
それに顔を上げると、湯馬が瞳を揺らし俺を見つめていた。
「…今日の放課後、……空き教室に来て。午後4時に」
「ー」
真剣な瞳に、俺は一瞬固まって、すぐ手を振りほどいた。
「…行かない、俺は…行かない」
「…脅迫は……続行されています」
…っ、
それに睨むように見ると、湯馬はその俺の目を見て再び口を開く。
「待ってますから、……俺」
そのときの、ひどく愁いに満ちた湯馬の表情に俺は言葉をなくす。
「…待ってます。待ってますから……」
ー「好き、…好き、」
頭に…
あの日の記憶がよみがえらされ、俺はフルフルと首を横に振った。
…違う、違う。
そうじゃない…脅されてるんだ、俺は……
写真をばらまかれるのが怖くて…だから湯馬にこんなにも振り回されているんだ、
今も、あの日も、あの日も……
…俺は湯馬から目を反らし、教室へと向かった。
後ろから見つめる湯馬の視線が背中に刺さるのを感じながら、俺はその場を去った。
「野上、何か熱中症直ったかも。今日色々ごめんな!」
放課後、席にまだ座る俺のところへ来て顔の赤みも引いた高藤がパンっと手を顔の前で合わせた。
「あーいいよ別に、そんなに害はなかったし」
言うと、ちらと伺うようにこちらを見てくる高藤に気づく俺。
何?と言うとんーと言いながら高藤は頭に手を置いた。
「あーいや、なんつーかさ、…お前、後輩と口論みたいなんなってなかった?俺ぼうっとしてたから、あんまり覚えてないんだけど…俺迷惑かけてねぇよな…と思って」
「あぁ…いいよ。迷惑とかないし、向こうが勝手に勘違いしてきただけ」
「なら…良いんだけど」
呟くようにして言う高藤を見て、害はなかったって言ってんだろと俺は高藤を見て再び言った。
高藤はそんな俺を見て、少し笑った。
俺に顔を近づけてきたあれは何だったのかとか、何で告白がどうなったとか詳しく聞いてきたのかとか、俺はそれには触れなかった。
…彼はただ単に頭がおかしくなっていたのだと、俺は自己処理をしてその件を済ませた。
ーーー
…
…それから、時計の針は時刻を4時に迎えようとした。
教室は一気に人がいなくなりがらんとして、俺だけがいつまでも席に座っていた。
カチコチという音だけが耳に入ってくる。
湯馬の表情が頭を浮かんでは消え、俺は訳がわからずに頭をしたに向け手を後頭部へ持っていった。
…何に躊躇しているのか、俺は自分が分からなかった。
…湯馬は俺を好きと言った。
付き合ってくれと、俺に言った。
けれど俺は無理だった。何故ならば、他に男がいたから。
…それなのに、それをだしにされて脅迫されて、彼に俺は全てをさらけ出してしまった。
断れず、呑まれ、他人事の振りをした。
…これはいつまでつづくんだ?
こんなことがどうして始まったんだ?
…好き、好きというくせに、卑怯な真似をして彼は確実に俺を断れない方向へむかせる。
好きになるわけないのに……
そんなことをしたって、俺は湯馬を好きにはならない、
湯馬だけを見るなんて、できないー
そもそもまだ会うことだって数回で、彼がお金持ちだとかいうことも友人から最近聞いた。
…彼はおれにとって、突然告白してきた新入生としかまだなかった。
だってそうだろう…?
無理矢理腕を縛って、無理矢理体を抱くなんて…
そんなこと、好意を持とうにも限界がある。
…どうして俺が好きなんだ。
…どうして脅迫までしてそんなに俺を縛り付けたいんだ。
…どうして何度も、俺に好きと言ってくるんだ……
……俺は、その気持ちに、答えられないのに…
何であんな真っ直ぐな瞳で俺を見てくるんだ…彼は…
このままではだめだ。
このままでは、俺も、彼も、良いことなんてない。
…もう終わりにしたい。
……こんな、馬鹿げた取引は……もうしたくない。
……したくないんだ、湯馬……
ー「待ってますから……」
湯馬の愁いに満ちた瞳が、俺の頭を過る。
……けれど駄目だ。
彼に俺を待たせてはいけない。
…彼を、ここに巻き込みたくはなかった。
……彼は、来てはいけないのだ。
こんな、俺なんかのところに。
「……誰かと待ち合わせ?」
…耳元で、聞こえた声に、
俺は静かに
……目を閉じるしかなかった。
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