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ーー
「‥すみません、遅れました。」
教室へ入ると、皆が一斉に俺の顔を見た。
「野上、前もなかったか。受験生だっていうのに、そんな自覚もないのか」
「‥すみません」
「点が良いからって調子に乗るな、さっさと席着け」
厳しい罵声を言われ、ストンと静かに俺は腰を落とした。
すると隣の席の高藤が声を潜めて尋ねてくる。
「なしたの、何してたの」
「‥別に、ちょっと用事」
言うと高藤はふーんと声を伸ばした。
「まぁいいけど、アイツ、お前のことただでさえ好いてないんだから、気を付けろよ」
そう高藤は教壇に立つ男を指して言った。
俺はそれに流すように軽くん、と言ってから前を向き、ポケットにある紙に手を伸ばした。
クシャッという音を出して、俺はその紙を出し綺麗に書かれたその字を見つめた。
ー○日、土曜日。午前10時に○○駅に来てください。待ってます。
その短く記載された言葉に、加えられていた待っているという言葉に、俺は先程の湯馬を思いだし、ため息をついた。
‥デート‥‥なんて。
そんなこと言われるなんて、思ってもみなかった。
どんな条件かと身構えたけど、まさか‥こんなこと言われるなんて。
けれど、もう大丈夫なんだ。これを呑めば、俺にアイツは会いに来なくなるし、俺とアイツの関係性は全くなくなる。
‥悩み解決じゃないか、やはり勇気を出して言って良かった‥。
ー「酷いですよ‥酷いですよ‥」
頭によみがえる言葉に俺はブンブンと横に首を振った。
知らない‥知らねぇよ。
アイツが俺をどう思おうが、俺は関係ないし。
大体、俺に無理強いした最低男じゃないか。
そんな奴、好きになるかよ。
これで良かった、これで良かったんだ
ーもう、やめてください‥‥
「‥‥」
‥‥あんな顔を、するなんてーー
これでいいと、そう言い聞かせながらも、まだ頭の奥の方で先程の湯馬の顔がチラチラと見え隠れして、俺はそれをなくすように乱雑にペンを走らせた。
ー
「野上、お前どーいうことだ。俺の授業2回も遅れやがって、つけあがんのもいい加減にしろ」
「すみません」
「すみませんじゃねんだよ、謝れば済むって思うな。一体どこで何やってたんだ」
放課後、俺は何故か遅れて行った授業担当の先生に呼び出され職員室で再び罵声を浴びされ続けていた。
つか‥‥完璧八つ当たりじゃねぇかよ。
くどくどと言われるそれに突っ立ったままイライラとしてその熱が冷めるのを待っていると、不意に職員室の扉が開く。
入ってきたのは、
雛原だった。
雛原はコツコツと俺たちの方向へ歩いてきて、先生、と呼び掛けた。
「なんだ、雛原。今取り込み中だ」
「ーあぁ~、そうなんですか?すみません、俺、明日からある夏休みの補習のことで、聞きたいことがあって先生に聞きたくて、来ちゃったんですけど。今じゃ‥‥駄目ですかねぇ?」
「‥‥。‥‥何だ、時間か何かか」
すると、雛原はにこっと笑って、はい、それもなんですけどーと言葉を続けた。
と、雛原と先生が話をしているのを見て、俺はゆっくりと足を後退させ、その場を去った。
ホッと息をついて職員室を出、教室へ戻ると少しして雛原が戻ってきた。
「‥‥あーぁ、疲れた」
かったるそうにして言う雛原に、俺はガタンと席を立つ。
「あ‥‥雛原、悪い‥‥さっき。‥‥もしかして、逃がしてくれた?」
言うと、雛原はこっちを見て、はぁ?と言って、自分の席へ向かった。
「俺は別に本当に聞きたいことがあって行っただけだよ。お前のことをどうこうなんて、考えちゃないし、いることも知らなかったよ」
「、‥‥そうか」
その言葉にぼそりとして呟くように言うと、雛原は先程の笑みとは違う怪しい笑みを浮かべ俺を見てくる。
「何?期待した?‥‥俺がお前を助けてくれたんじゃないかって?」
「別に‥‥そんなこと」
「嘘つく気?ーバレバレなんだよ、お前の考えてることなんて、全部」
言って、雛原が近づいて、背後から俺の顎を上に上げた。
「ーーおい、雛原‥」
「今日は何で遅れてきたんだ?」
ビク
その問いとともにちゅっと首筋に触れる熱い唇に、何も身構えていなかった俺は微かな声を漏らす。
「お前‥割りと真面目な方なのに、これでもう2回目だぞ。何してるわけ」
それに心臓がどくんと脈打つ。
「‥‥お、女の子に、捕まっててさ‥‥それで、なかなか出れなくて、」
「ー女の子?ふーん‥‥どんな子?つか何年なん組何番の何さん?」
言って背後から耳に息を吹きかける雛原に、ぞくっと体をビクつかせる俺。
視線を下に向けると、雛原の手が俺のシャツに入り込み、俺は身をよじる。
「‥‥い、えない‥‥それは」
「何で?」
「‥‥別に‥‥何かされたって訳じゃないし、」
言うと、ふっと雛原が声を漏らし笑う。
「何かされた訳じゃないって‥‥何それ。当たり前でしょ、何かされたって前提で話は進めてないよ何も」
「いや、でも‥‥おれ自身、知らないんだよ、相手の子‥‥。急にフラッと来て、だから急に帰れなくなったっていうか‥‥だから名前聞いてないし、遅れたのも断りをいれてたからだし」
すると雛原がふーんと言って俺の肩の上に腕を置き首に腕を前へ回す。
ぎゅっと密着したそれに暑さと熱さが混ざる。
「断り、‥ねぇ」
雛原は俺の言葉に、意味深なようにそう声を出して、俺の耳にかぶりつく。
「ちょっとっ、!」
「‥何か怪しいよね、前も告られてそれ断ってたから遅くなった‥みたいなこと言ってなかった?」
雛原の言葉に、目を開く俺。
「あぁ‥、あったな‥‥前にも同じようなこと、そういえば‥‥」
はは、と軽く笑い言う俺。
「‥‥笑い事じゃねんだけど」
それに、耳そばですぐ聞こえるヒヤリとした雛原の声。
「‥‥ごめん、」
‥どくん
肌を直にさわる手にドクドクと音を立てて酷く緊張する体。
「‥‥てゆうか、前まで誰も近寄ってこなかったのに、急にパラパラ現れるってどうなの」
「、え?」
「お前、興味ない奴にはさ、基本近寄らせない雰囲気発してただろ。なのに突然言い寄られてさ‥‥何でそんなんなってるの」
‥‥‥
「それは‥」
ビクっ
「どこ触‥」
「知らないってなにそれ」
「‥」
「‥‥なぁ、本当に女の子に捕まってたのか?」
‥‥どくん
「‥‥いや、」
どくん‥‥
「‥それは‥だから‥、」
「ーまさか‥‥あの告白してきた湯馬とかいうやつと、続いてんじゃないだろうな?」
ーーどくん、
‥‥どくん、どくん
どくん‥‥、
これは‥‥バレ‥‥た?‥
‥‥それとも、試してる?‥‥
それとも、ただの勘‥‥?
「‥‥答えろよ」
‥‥‥‥一度だけ、俺とデートしてください‥‥
なんて‥‥‥
ー待ってます‥‥
‥‥言ったら‥
ーガラ
「あ~やべぇーっ忘れ物忘れ物~!」
ビクっ
その突然入った大きな声に反射的に前扉の方を振り向く。
そこにいたのは、高藤だった。
「‥‥て、あれ?雛原に野上‥‥お前ら何してんの?」
高藤はすぐ自分の席へ行こうとして窓際の前の方で二人いる俺と雛原を見た。
「別に、何もしてないよ」
雛原は俺からすっと手を離し、何事もなかったのように冷静に答えた。
高藤は雛原を見て、雛原も高藤を見た。
‥‥‥‥よく分からない静寂が教室を包んで、暫くして高藤が口を開いた。
「ーそっか、ならいーけどっ」
自分の席へ行って机から教科書を手にとると、高藤は俺たちにそう言ってにっと笑った。
雛原はそれに対して同じようににこっと笑って高藤を見た。
俺は笑みを浮かべる高藤を無表情にただ、見つめるしかなかった。
高藤はそれから、入ってきた扉の方へ向かって歩き、じゃな~と笑って言って、お目当ての忘れ物を手にして俺と雛原を残し、さっさと去っていった。
「‥‥あーあ」
ドキ
雛原の気だるげな声に、俺は体を微かに揺らし反応する。
「なんてゆうか‥高藤ってさぁ‥」
言って雛原はそこまでで言葉を一度止め、伺うように俺を見た。
「、何?」
聞くと、雛原はじっと俺を見据え言った。
「‥何で彼女、作らないんだと思う?」
「ー。え、」
その予想もしてなかった言葉に目を開く俺。
そんな俺を何故か探るような瞳で見つめる雛原。
「さぁ‥そういうの、興味ないんじゃないの」
「興味がない?」
適当に思ったことを言うと、それに食いつくようにして尋ねる雛原。
「‥何だよ急に。何で高藤が気になるんだ」
「だって変だろ?カッコいいのに、人気あんのに、いっつも振ってばっかりらしいし‥どこかに本命でもいるのかと‥」
そう言って、雛原はどこか怪しげに笑って俺を見た。
「知らねぇよそんなこと‥。本人に直接聞けば」
「何だよ急につれないな‥まさか嫉妬してんの?」
「っ、そんなんじゃない!」
声を出すと雛原はちょっと驚いて、そうして俺を見て微笑んだ。
「‥大丈夫。俺は男の恋人は、野上以外考えられないよ」
ドキ、
「ー違っ‥!誰もそんな、嫉妬なんて‥!」
「おいおい顔が赤いよ野上」
「からかうなっ!」
‥くっそ何だよコイツ!
にらむようにして見ると、雛原はフッと笑って俺の頭をポンポンとした。
「クス‥まぁいいけど‥お前は俺のなんだから、そこは絶対自覚しとけよ」
「分かってる‥」
「‥‥じゃあ俺が好きか?野上」
「‥。‥好きだよ‥そりゃ」
俺はそれに、少し顔を背け小さく答えた。
雛原は優しく笑って、俺を正面から抱き締めた。
ーーー
‥明日から夏休みー
今週の土曜日は湯馬と一度きりの最初で最後のデート‥‥。
あとは受験勉強と、それから雛原にたまに会えたら会って、高藤とは、気分がまぁ‥良い時に会って‥長い1ヶ月ほどの休みも、そうしてなんだかんだで終わっていくのだろう。
そしてきっと‥これから先もずっと、このわけの分からない、彼との矛盾した関係も、‥切られることもなく、切ることもなく、続いていくのだろう。
湯馬との関係がなくなれば、尚更‥‥
俺はもっと彼に惹かれて、抜け出せなくなるー
恐怖心もなくなって‥より一層‥俺は雛原だけに目を向けることができる‥。
俺の心は、そのとき‥そう、
間違いなく、安堵していた。
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