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第4話 一途な恋のわけ(1/2)
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“‥‥あなただから、こんな卑怯な真似してるんですよ‥俺”
By湯馬
ー
「ねぇねぇ~君カッコいいよね~」
「どっかでお姉さんたちと遊ばない?」
「奢るよ~?ねぇいいでしょ~?」
‥‥。
後輩‥湯馬は、やっぱりモテるらしい。
ー先日、湯馬に脅迫をやめさせてくれるのを条件に、デートを約束された土曜日。俺は、早速待ち合わせの場所の駅前までやって来ていた。
つい昨日までは3年全員補習で、夏休みはじめの一週間の平日は、ほとんど丸1日勉強尽くしだった。
だからこうやって外へ机に向き合わず出掛けるのはひどく久しぶりのような気がして、だからか外の夏の太陽の暑さに、出て5分も経たないうちに折れそうになってしまった俺。
けれどまさか放り出すわけにもいかず、歩いて15分ほどで着く駅まで行って、俺は湯馬の姿を探した。
そうしてすぐそばで聞こえたその甘ったるい声。
見れば数人の20歳くらいの女に囲まれた湯馬の姿があった。
きゃぁきゃぁと異性にアイドルのように騒がれ、湯馬は涼しい顔をしてそこに突っ立っていた。
お姉さん方の誘いは一切聞いてないのか、聞かないように無視しているのか、何も言わずにやたらに腕時計を確認して、また顔を上げどこか宙をじっと見つめている湯馬。
俺はどうやって行けばいいのか分からずに足を躊躇させ立ち止まらせる。
‥というより、さっさと睨むでも断るでもして、どっかに行かせればいいのに‥
そんな心境で囲まれた湯馬を見ていると、ふとその目がこちらをくるっと向いて、途端ばちっと重なりあう目。
それに、びっくりして目を開くと、湯馬は俺を見て少し笑って近づいてきた。
「先輩、久しぶりです。約束、守ってくれたんですね」
ふわ‥と嬉しそうに笑って言う湯馬に、俺はどう対応すればよいのか分からず、曖昧にあぁ‥と頷いて目を反らした。
「来たくて、来たわけとかじゃないけどな」
「分かってますよそんなこと。一々言わないで下さい」
は‥っと笑うように言ったのに、湯馬は言ってへらへらと笑った。
俺は少し調子が狂った。
「あれ~?その子友達~?」
すると先ほど騒いでいたお姉さん方がこちらに寄ってきて甘ったるく尋ねてきた。
「いや、俺は‥」
言おうとすると不意にガシッと捕まれる腕。
え、と思うとお姉さん方は目をキラキラさせて俺を見てくる。
「君もカッコいいーー!?嘘~何で?二人ともどういう繋がり?超気になるんだけどっ」
え‥‥
「君彼女いるの?いないなら付き合おうよ~」
「全然奢るよ~二人とも奢っちゃう~~」
ぐいぐいと迫ってくるようなその勢いに、言葉をなくす俺。
「い、いや‥‥いいですから、金あるし‥」
若干後ずさって言うと、横で立つ湯馬がぐっと俺の腕を掴んでいたその手を離させてくれる。
「湯馬あり‥」
がとう、と言おうとして、不意に横で感じる殺気。
見れば口は笑っているのに目が全然笑ってない湯馬 春斗‥
さっきの笑顔はどこへいったのか‥と、身の危険を感じて、横目で静かに観察する俺。
「ーーちょっと、さっきからいい加減にしてください。俺だけならまだしも、先輩を誘うなんて、本当に殺しますよ俺」
「な‥殺す?何よ、それちょっと失礼じゃない?」
「失礼はどっちですか。勝手に知り合いでもない他人のあなたたちが俺たちに言い寄ってくることの方がそれ相応の言葉として相応しいですよ。興味ないと言ってるのにいつまでも群がって、だから誰も好いてくれないんじゃないですか」
‥‥おいおい。
「なーにーよーーこの男!」
「ちょーし乗んなよお前ぇ!」
「自分のこと何様だと思ってんのーっ!?」
途端キレるお姉さん方。
今のはどう考えても‥湯馬が悪い。
「湯馬、やめろって、」
ぐい、と湯馬の腕を引っ張り言うと、まだ何か言い足りないのか不服そうな顔をして見てくる湯馬。
俺はそれを無理やり引っ張って、その場からズルズルと湯馬を引きずり去っていく。
後ろから逃げんなお前ーー!という声が聞こえたが、追いかける様子はなかったので俺はホッと胸を撫で下ろした。
「‥はぁー全く‥。出だしから何やってんだお前は」
少し歩いて立ち止まって言うと、湯馬は呆れたように言う俺を見て、目を少しだけ反らしてすいません‥と謝った。
「だって俺‥先輩に触ってほしくなくて‥‥無性に苛立ってしまって‥‥」
湯馬はしょぼんとして言った。
「ーはぁ‥?何だよそれは‥。だからって、たかが手触られたくらいで殺すなんて言うやつがあるか?お前の言うように向こうは俺の知ってる人じゃないんだから、ああいうこと言ったら駄目だろ。言い過ぎだった、さっきのは」
咎めるように言うと、すみません‥と湯馬は再び謝った。
俺はそれを見て、軽く湯馬の頭に手をポンと置いてちょっと笑ってやる。
「‥何ですか?」
「‥いや、お前って意外とあれなんだなって。冷静そうなのに、怒ると周りのことなにも見えなくなる奴なんだって思って」
「‥‥ダメですか?」
「いいや?俺は、いいと思うよ」
言うと、それに湯馬は笑って、俺の手をとった。
ぐいっと今度は逆に引っ張られるその手に、目を開く俺。
「ちょっと‥、なにー」
「ーー今日は俺が彼氏ですよ。先輩は俺の恋人、俺は先輩の恋人。そのことを絶対忘れることのないように」
「はあ?恋人って‥手なんか繋いで、」
「ふふ、恋人繋ぎ~」
ドキン
な‥
不意に無邪気に心底嬉しそうな顔をし言う湯馬に、不覚にも目を奪われる俺。
繋がれた手に、感じる湯馬の体温。
「‥‥ほら、早く行きましょう?」
湯馬は、俺の手を握ったまま笑ってそう言って、俺を引いて歩いた。
俺は、わけの分からない気恥ずかしさに戸惑いながら、力強い手に引かれた。
こんなことをされるのは‥‥初めてだった。
こんなふうに笑いかけられるのも、初めてだった。
‥歩いていると、すぐそばで数人の若い女子たちが俺たちを見ているのが分かった。
ーけれども俺は、
その手を振り払うことができなかった。
ー
「きゃ~見て見てあそこ、あの二人超かっこよくない?」
「何してんのかな~服選んでるのかな」
「話しかける?どーする?」
「どーしよ~っ」
‥‥‥
‥約、10分ほど電車に揺られ連れてこられたのは、どこかと思えばメンズの服を売っているお店だった。
そして目の前で、湯馬が何故か先ほどから何度もカチャカチャと服を俺に当てては返すを繰り返している。
「んーこれかなぁ?ん?こっちの方が良いかな?」
「‥おい、湯馬。さっきから何やってんだ。服を人に一々当てて‥」
されるがままに突っ立つ俺は数分してようやくそう口を開く。
すると湯馬はにこっと笑ってこちらを見た。
「何って、だって先輩、もうすぐ誕生日でしょ?確か。服くらい、プレゼントしたいと思って」
その言葉に、ちょっと驚く俺。
「何で知ってるんだ、誕生日」
「まあ、ちょっと人づてに」
人づてに‥‥って。
一体誰に聞いたんだよ‥‥。
「あっこれいいかも。緑と黒のチェックのパーカー」
「ちょ‥いいって。俺別に、プレゼントとか」
「まあそうですよねー。先輩顔良いから、結局何でも合っちゃうんですよねー」
「ー聞いてんのかコラ」
そして湯馬はにこにこと笑って服を持つと、勝手にレジに向かっていった。
慌てて追いかけると、湯馬は素早く購入してしまったらしく財布をポケットに収めていた。
「おい、いいってのに‥」
「良いですって。俺があげたくて買ったんですから。はい、どうぞ」
「‥‥でも」
「ー先輩。俺は今日先輩の恋人なんですよ?‥‥だから、つべこべ言わずに、ほら、受け取って下さい」
‥‥。
「‥‥分かった。」
「クス、良かった」
湯馬は笑顔を浮かべて俺を見つめた。
「ーー先輩、次はお昼食べに行きましょう。美味しいとこがあるんです」
「あ、ちょ‥‥」
「先輩きっと、気に入ってくれると思います」
湯馬はきゅ、とまた俺の手を掴んでぐいぐいと道を歩いた。
繋がれた手に、向けられる笑顔に、俺はまたよく分からない感情を抱きながら、導かれるそれについていくのだった。
お昼を食べ終わると、湯馬は海でも行きますか?と言って、俺たち二人は再び電車に乗って、バスに乗って、更に何分か歩いてから、その目的地までやってきた。
有名な泳げる海でもなかったので、人はまばらにしかいなく、空いていた。
湯馬は砂浜を歩いて、俺はそのあとを追うように歩いた。
熱い砂が、サンダルの中を侵入してきて、照りつける太陽は露出した腕やら顔やらを、容赦なく攻撃してきた。
「先輩、海入りましょうよ、冷たくて気持ち良いですよ」
その声に顔をあげると、いつの間にか海に足を浸けて笑っている湯馬の姿。
それに、え‥と後ずさる俺。
「いいよ‥俺は。濡れたら砂つくし‥面倒だし‥」
腕を体に回すようにして遠慮して言うと、それを見て海から出てくる湯馬。
ザッザッとこちらに向かって歩いてくるその姿に、何故か胸の辺りがざわつく。
「先輩‥、来て」
湯馬は俺のところまで来ると、少し真剣味を帯びた顔をしてそう言って、湯馬は俺の手を取って、強引に海の方へ引っ張っていった。
「湯馬‥、待てって、」
俺は戸惑いながらその手に引かれた。
戸惑いながらも、俺は嫌だと、言えなかった。
‥‥
「‥ー冷たっ!」
「大丈夫ですよ。すぐ慣れますから」
それは分かっているけれど‥‥。
「ちょ‥‥っ湯馬、あんま引っ張んなよ、」
水位が俺のふくらはぎまで浸る。
「大丈夫ですよ‥。ほら、俺の手をちゃんと握って」
「‥別に、泳げないわけとかじゃねぇよ」
「そうなんですか?じゃあ入ればいいじゃないですか、おもいっきり」
「‥そんなことしたら服がびしょ濡れになる」
言うと、側でくす、と笑う湯馬。
「‥何だよ」
湯馬に手を引かれながら、それに若干ムッとして眉間にシワを寄せる俺。
「あぁいえ‥すみません。ただ、心配性だなぁと思って。‥てゆうか先輩、こうしてると女の子みたいだな‥とか」
緩やかに笑って、湯馬はさも嬉しそうに目もとを細くして花を飛ばしていた。
‥‥な、つうか何‥‥?
女の子‥だ‥?
「ふざけんなよお前‥!俺のどこがどう女の子なんだよ!」
「えー?、だって先輩、俺の後ろをゆっくりゆっくり手を掴みながら進んで、しかも服が濡れるの心配してるんですもん。女の子ってそういうとこあるじゃないですか」
‥‥っ
コイツは‥‥っ‥!
「そういうことを笑顔で嬉しそうに言うな‥!!」
「だって可愛いくて、先輩」
「どこがだよ!!」
「そうゆうとこ」
湯馬は笑って、けれどとても綺麗な顔をして、俺の方を振り返って見た。
俺はそれに一瞬体を固まらせながらも、再び言葉を返そうとして、ーそれから足を不意につんとして当たる何かにつまずく俺。
あ‥っと思うと、体が瞬間宙を浮く。
ートサ‥ッ
湯馬が当然のように俺の肩を掴んで、体を胸の辺りで支えてくれる。
「大丈夫ですか‥?」
そうしていつの間にか反射的に握ってしまっていた湯馬のシャツに、気づいて慌てて手を離す俺。
「だ、大丈夫大丈夫‥。悪い‥」
身を離し焦ったようにして謝ると、湯馬は俺を見てまた優しく笑った。
「良いですよ、先輩が怪我をしてないのなら‥」
波の音が、ザザーンと、次の瞬間耳に大きく響いた。
「‥‥お前、今日変。‥優しすぎ」
足を塩水に浸けたまま、湯馬と少し距離を空けたその場で、俺は小さくぼそりとそう呟いた。
湯馬は少し驚いて、そして笑った。
「そうですか?俺、優しい?」
湯馬の言葉に、俺はこくりと頷いた。
「なんか‥優しくて‥、優しすぎて、すげぇ‥調子狂うって‥いうか」
「あはは、そうですか?何でだろ‥今まで優しく接してこられなかったからかな‥」
湯馬はどこか遠い目をして、俺を見て笑った。
「ていうか俺、よく考えたら最悪ですよね。男の先輩に告白して、駄目だと分かったら脅して、先輩抱いちゃったし、今もこうして先輩を俺の都合で振り回してる」
「‥‥別に、今さら‥」
湯馬の少しうつむかれた寂しげな瞳に、俺はもごもごと口を動かし何か言おうとしたが、何を言えばよいか分からず続く言葉が詰まる。
すると、それを見てか湯馬が少し微笑を浮かべ俺を見る。
「俺‥本当はこんなつもりじゃなかったですよ。今言っても、アレですけど‥」
「え?」
「こんなふうに‥先輩と二人普通に遊んで、学校でもすれ違ったら気兼ねなく会話して、お昼は時々一緒に食べて、帰りも時間が合ったら一緒に帰ったりなんかして‥‥」
湯馬は、想像するようにして軽くそう目を閉じて言った。
長い睫毛が映えて見えて、俺はただじっとそれを見つめていた。
でも‥‥と、湯馬が言った。
「‥それだけじゃ嫌だった‥友達で終わるのは、嫌だったんです‥‥。先輩とキスして、えっちして、痕つけて‥‥先輩を俺のものにしたかった、彼氏がいるのは分かってたけど、それでも抱きたかった‥触れたかった、一時的にでも」
言って、湯馬は俺を見つめ頬にそ‥‥っと自分の手を添えた。
そのときの手が、何故か酷く心地いいと俺は感じていた。
「ーー先輩は‥優しいです。こんな俺にでも、ちゃんと付き合ってくれる‥俺とちゃんと、向き合ってくれる‥逃げないで、受け止めてくれる‥」
耳に、遠くにいたカップルのきゃっきゃっと言う声が聞こえる。
「当たり前だ、脅迫されてんだから‥」
言うと、湯馬は手で俺の頬を撫でるようにして、少しだけ動かした。
その手が、目が、優しく俺を見つめる。
「それ抜きにしたって、優しいですよ。‥普通に、態度変わってもいいのに‥全然先輩変わらないし‥、俺が何をしようと、ありのままでいてくれる‥‥」
「‥‥それって優しいのか」
呟くように言うと、
「優しいですよ」
困ったような笑いがおをして、湯馬は俺を見た。
「だから好きになったのかな‥‥こんなに。諦めの悪いくらいに‥‥」
‥‥ー湯馬のその囁くような声に、俺はどくんと心臓を跳ねさせた。
「‥あ、すみません。こんなこと言って」
湯馬はすぐ、またにこっと笑った。
俺ははっとしながら湯馬からさっと目を反らした。
心臓が少し乱れているのを感じた。
「先輩、そろそろ行きましょう。先輩服濡れるの嫌みたいだし。あっ、でも海パン持ってきてたらもしかして別でした?」
湯馬は屈託なく笑ってそう尋ねた。
「‥‥そういう問題じゃないだろ‥。泳ぐ気ないし、全然」
フイとして言うと、湯馬はあははと笑った。
「そうですか。そうですね、先輩っぽい」
湯馬はニコニコとして、俺の手を引いて、海から出た。
‥湯馬の手にある自分の手が、少し汗をかいているように感じた。
ーそれからバスに乗り帰ると、いつの間にか時間は午後4時頃に差し掛かっていた。
辺りはまだ明るく、湯馬は相変わらず俺の手を握っていて、そして遠くの方でドンッドンッという大きな音が聞こえた。
湯馬はバスから降りると、俺の方を向いて言った。
「そういえば今日、ここら辺りでお祭りあるみたいなんですよ」
俺はそれに、ふーんと言葉を返す。
すると湯馬は、行きますか?と言って俺を見た。
ここからあとは、そのまま電車に乗って帰るだけなのだが、不意にそれを言われ、俺は少し言葉を詰まらせた。
「‥‥え、‥‥どっちでもいいけど」
何となく断ることもできず視線を下にしてぼそっと言うと、湯馬はぎゅっと握っていた俺の手に少しだけ力を入れ微笑んだ。
「ーじゃあ行きましょう、お祭り」
「‥え、」
俺が何か言うよりも早く、湯馬は俺の手を引いて駅とは反対方向を歩き始めた。
「ちょっと‥、湯馬、」
「楽しみですね~お祭り。ここのお祭り、実は行ったことなかったんですよね俺」
湯馬は前を向いて笑って、そう言った。
‥俺はただそんな湯馬から目を反らして、
「‥あぁそう、」
と、ただそれだけ、‥‥呟くようにして言った。
側を浴衣を着た女の子が二人ほど通って、楽しそうにきゃっきゃっと笑って歩いていって、ドンドンという太鼓を叩くような音が、だんだんと近づくのが分かった。
湯馬は俺の隣に肩を並べるようにして歩いていた。
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