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第5話 低迷する恋情(1/2)
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“‥‥俺にとってお前はただのモノ‥‥て、お前はまだ、そういうふうにしか俺のこと思ってくれてねーんだろ‥?”
By雛原
ー8月に18歳の誕生日を迎えた。
家ではケーキが出て、高藤からメールでおめでとう!!としてきていた。
期待はしていなかったけれど、雛原からは、特に何の連絡も、メールもなかった。
けれど自室には、大きなクマのぬいぐるみと、ちょっと高めの服が袋に入ったまま置いてあって、プレゼントをすごく貰っている奴みたいになっている。
貰った相手は後輩で中学のときにも会ってる俺を好きな男‥とかいう辺りが、何か面倒だ。
友達、とか、知り合いに、とか、なんでもいいからそういう簡単な言葉にしてしまいたいのに、‥それは
それで俺からしても無理な言葉に違いなく‥
ただ、どの言葉で表現すればいいのかわからないままに、俺はぼうっと格別思考回路の遅い頭を夏休み中いつまでも動かしていた。
「久しぶり~っ野上」
夏休みも終盤にかかって、高藤が家にやってきた。
この夏休みは補習と宿題で追われていたので、いつも携帯を確認していない俺が高藤が家にやってくるというメールをついさっき送っていたことはもちろん気づくはずもなく‥ただずかずかと入ってくる高藤に、ちょうど勉強していた俺はそれを振り返って見、眉を寄せた。
「おい、不法侵入者。何平然とした顔してインターホンも鳴らさずに入ってくるんだボケ」
「ーえ~んなのいっつもじゃんっ見逃して?」
「黙れキモい」
「ちょお~‥っ!!?ちょ、ちょ、ちょっ!何か冷たい!いつもより倍増して冷たいっっ!」
‥‥。
高藤が本気で怯えていたので、俺も少し頭を休めて勉強をやめ、カーペットのひいてある上にあるテーブルの方へ移動して、高藤と向き合う形で座った。
「‥野上。あーのさ、何かあったの?すっげー‥‥なんか機嫌悪くない?」
コトンと、ジュースを置くと、高藤はおずおずとそう聞いてきた。
「‥ごめん、さっきはそうゆんじゃないから。‥ちょっと、色々あって、溜まってた」
罰が悪そうに言うと、ふーんと高藤は言った。
「色々、ねー」
「そ、いろいろ」
「例えばどんな?」
「それは言えない」
「なんだそれ。友達に隠し事か」
「別にそんなんじゃ」
「つーか、さっきから聞こうと思ってたけどあのクマ何?どゆこと」
「‥‥あれは‥」
「そばにあるあの紙袋とかさー何?プレゼント?つかブランドものじゃね、何で開けてねーの?つか、お前こういうの好みの奴じゃなくない?」
‥‥やば‥。
「‥別に、好みじゃないわけでもねーよ。たまにはほら、買わねーと」
「ふーん。‥クマはなんなの」
「あれは‥ユーホーキャッチャーしてたら勝手に取れた、というか‥」
「は?なんだそりゃ」
「ーつか、どうでもいいだろんなこと、お前が来た理由は何だよ。俺の部屋見てちょっとでも変わってたら指摘するのが好きなわけ」
「かもな」
「ざけんな、彼女か」
「え、俺が彼氏じゃね」
「何で」
「俺のが背高いしぬいぐるみとか彼氏はもらわねーだろ。野上女装意外と似合いそうだし」
「変態だったのか‥」
「うっさいなオイ!」
‥‥‥。
「‥‥で、結局何で来たんだお前」
「いやーそれが、そのさぁー」
「‥‥」
「宿題見し‥」
「ーー帰れ」
‥相変わらず高藤は、高藤のままだった。
ーー
「ういーす」
「ハヨー」
「何か焼けた~?」
そうして数日後、再び学校は音もなく始まった。
「野上ーおはよ~」
「あぁ、高藤。はよ」
「先日はどうも。助かった」
「次はねぇからな。まともに宿題くらいしろ」
「へーい」
‥‥絶対反省してないんだろうな、こいつ。
「野上」
ードキン、
振り返ると、ニコッと笑って、雛原がこちらを向いて立っていた。
「‥‥おはよう」
「‥クス、おはよう」
夏休み中も、補習で何度も会っていたはずだったのに何故か変に緊張している自分がいてしまって、静かに平常心を保った。
「夏休み、何してた?」
「‥別に。勉強」
「本当に?海とか行かなかったの」
「見りゃわかんだろ、焼けてねぇじゃん」
「いや、だって野上って赤くなってもまたすぐ白に戻るタイプだろ」
「‥‥」
‥‥本当、俺のこと何でも知ってるみたいによく言える。
彼は言わないだけで、‥‥どうせ俺以外の可愛い女の子と夏休み中満喫していたんだろう。
そんなこと、探ろうなんて、聞き出そうなんて、断固としてしないけれど。
ガラ
「おらーさっさと席つけお前ら~」
担任が入ってきて、皆がぞろぞろと自分の席につき出す。
休みが明けても、まだ外は暑く、教室も蒸し暑いままだった。
何気なく窓の方を向くと、綺麗過ぎる空色だけが広がっていた。
「野上~今日昼学食にしない?」
午前の授業が終わって、高藤がそう言ったので、特に断る理由もなく俺は頷いた。
学食は1階にあって、俺たちの三年の教室は3階だった。
「つか、何で今日学食なの」
階段を降りながら、小さいあくびをして何となく言う俺。
「えー?いや、別にパン買ってもいんだけどさー」
「うん」
「まぁでも、たまには学食も食いたいじゃん、と思ってな」
「へー」
「あ、ちょお待ち。俺金教室に忘れたわ」
「‥‥何やってんだお前は」
ガクッと、呆れたように言うと、すぐ戻ってくる~と言って、横を振り向くと高藤は既に降りてきた階段を一目散に逆そうしていた。
そうしてその間振り向く女の子多数‥。
‥さっさと彼女でもなんでも、作ればいいのに、本当。
まさか気づいてないってわけでもないだろうし、‥‥本命でもいるのかまさか?
まぁ‥‥どちらにしても、もったいない奴だ。
またそういうこと、聞いてみよう。
「‥くん、待って~歩くの早い~」
階段を降り、1階にたどり着くと、向こうから明らかに猫なで声をした女の子とそれを振り払うようにする男の姿が見えた。
とても見覚えがある姿だった。
ほどよい背と、少しだけ茶色がかった髪。
その人が不意に顔をあげ、こちらを向いたとき、
俺は思わず息が止まった。
見覚えがある‥‥?
いいや違う、
‥分かっていた。
「‥‥」
見間違えるわけ、なかった。
その人は以前会ったときよりも若干また背が伸びている気がした。
少しだけ日に焼け、前より男らしくなっている気もした。
‥こちらを見つめる目は、何も変わっていなかった。
「‥‥湯馬」
俺は動けずに、立ち止まっていた。
「‥‥」
湯馬は、返事をしなかった。
先輩、とも、こんにちは、とも、何も言わなかった。
ただ、俺から少し視線を反らし下げていて、両手はポケットに突っ込んだまま、隣にいる女の子の手が巻き付くのが分かった。
「春斗君、この人誰?先輩?」
その女の子は、客観的に見ても可愛らしい子だった。
目が大きく、背が低く、髪がくるくると巻かれており、隣を通りすぎる男らが自然と目を惹かれているのが分かった。
‥この子は誰なのか、
いつから、どういう関係なのか‥‥
そう、聞く権利は、今の俺にはないのだと、ー
何も言わない湯馬を見て、俺は思った。
「あの~先輩って、もしかして野上、先輩ですか?」
「え‥‥?」
黙ったままの湯馬にどうしたものかと今さらその場を動けずにしていると、その女の子が不意にそう言って見上げた。
そう、だけど‥と、呟くように言うと、女の子はとたんに目を輝かせた。
「わ~やっぱりそうなんだぁ~!カッコいいと思ってたけど、そっかぁー野上先輩生で初めて見た~」
それにどうすればいいのか分からず、え、と狼狽えていると、隣にいた湯馬がおい、みきと、制止するような声を出した。
「え~だってこの人有名だよー?私のクラスでも野上先輩狙ってる人いっぱいいるし、カッコいい~って。」
そう言う、恐らく彼女だろう言葉を、湯馬は止めていた。
「‥もう分かったから、迷惑だろ、ほら」
‥言って、湯馬は俺の顔は決して見ずに、ただぐいっと彼女の手を引いて、その場を去ろうとした。
「待って春斗君、どうしたの?、ねぇ学食行こうって言ったじゃん」
彼女の抵抗するそれに、湯馬は少しイライラしているように見えた。
「も~そんなに上に上がりたいなら先に上がってていいよー。私先輩とお話するから」
「ー駄目だ」
ドキン、
‥て、なぜここでドキンっとかなる。
「俺の彼女なんだろ、だったら俺のそばにいろ」
‥‥湯馬が俺と彼女が話すのが駄目だというその意味が、俺がどうこうなわけ、
ないって、分かって‥‥いるのにーー。
「も~春斗君がそういうこと言うと思わなかった~」
‥‥。
「じゃあ野上先輩、またっ」
‥‥‥‥
‥‥
湯馬は最後まで、俺の方は向かなかった。
「野上、わりっ!遅くなった!」
「‥‥おー」
「いやーなかなか財布見つかんなくて~」
「‥んー」
‥‥‥俺のそばにいろ
‥‥。
「ー野上?」
‥‥‥何で。
何で、消えないんだ‥‥‥‥
どうして、
ー好きです、‥‥‥‥あなたのことがーー
俺がこうさせたのに‥‥‥
俺がこれを望んだはずなのにー
なのに、何で、
ーずっと、好きだったんですよ‥‥
‥‥もういい、
もういいから‥‥‥‥
‥‥‥‥さっさと消えてくれ‥!!
ーー
「ーあぁああ‥‥‥っっ!!」
‥好き、好き、あなたのことが、好きですー
「んんっ、あぁああっ、‥‥」
‥‥‥俺は、俺はいつから、こんなサイテーな男になってしまったんだろう。
「‥‥クス。野上、今日はやけに締まりが良いんだな‥?」
頭では違う男がちらついて離れないのにー
俺は雛原と、こんなことをしている‥‥ー
「もっと、強くしてやろうか‥?」
‥‥俺はいつから、
「あぁああああ‥‥‥っ」
‥‥こんな人間に成り下がってしまったのだろう。
「‥‥野上」
‥放課後、俺から雛原の家へいきたいと言って、セックスをした。
そして事が終わって、俺は寝るでもなくベッドの上に体操座りをして頭を膝に押し当てた。
頭に、撫でるような大きな手のひらが乗って、心臓がいやと言うほど掻き乱されるようだった。
「‥野上、どうした」
低く、甘い声に、体が疼いた。
いつだってそうなのだ。
雛原は‥‥彼は、いつだってこういう日に限って、優しい。
だから騙される。
この優しさが、俺に向けられているのだと。
この目は、俺だけに向けられているのだと‥
‥‥‥そう、
錯覚してしまうー
そして俺はいつだって、
それに流されているんだ‥。
プルルルッ
「ーはい、もしもし」
唐突になった携帯の着信音。
それは長年付き合ってきた俺にはもう慣れたことだった。
「あー来週の日曜日?いいよ、れいちゃんのためにあけといてあげる」
‥‥俺が隣にいても、いなくても、彼が携帯に出ないことはない。
俺がそばにいようと、いなかろうと、彼は勝手に違う子との約束を入れる。
‥俺はそれでも良かった。それでも、そうだとしても、彼が俺を一時的にでも見てくれるのなら、抱いてくれるのなら、こんな幸運なことはないと‥そうーー
‥‥‥ずっと、思ってきた。
ーはずだったのに。
ピッ‥
「はぁー疲れた、ちょっとシャワー浴びてくる。帰ってていいよ」
「‥‥分かった」
雛原が部屋を出たドアを、俺はしばし見つめていた。
‥‥‥湯馬だったら、こんなこと絶対しないのに。
湯馬だったら、俺を置いて、帰れなんて言わないのに。
湯馬だったら‥‥‥湯馬だったら‥‥‥
ふと、そこでザーという音に目を窓に向けた。
外では、どしゃ降りの雨が降っていた。
ザーッザーッ‥‥
‥‥雨は、当たり前のように冷たく、心なしかとても痛みを感じるようだった。
時刻はまだ6時と夏ではまだ明るい時間帯のはずなのに、雨がひどいせいか、辺りは薄暗かった。
雛原の家を出て、約5分が経つ。
体は雨で体温を奪われ、頭もシャツも、ズボンもパンツも、全てグショグショに濡れていた。
濡れている感じが気持ち悪かったけれど、体が冷えるような冷たさは、今の俺には必要だった。
少しして、隣を傘を差しておばさんが歩いてきた。そして俺を見て一瞬躊躇し、その場を去っていった。
‥‥優しい人だ。
傘を貸そうとしてくれたんだろう、きっと。
世の中にもまだ、そういう優しい人って、いたんだ‥。
‥嬉しい。
嬉しい、
‥‥‥嬉しいって、こういう感情を言うんだっけ?‥
わからない。
そもそも、優しいって、なんだっけ。
ううん違う。
好きって、どういうきもちのことを言うんだったっけ‥‥?‥‥
俺はいつから、雛原が好きだったんだろう‥‥‥
雛原のどこが好きになったんだろう。
雛原はどうして、俺を手放そうとしないんだろう。
雛原はどうして、俺以外に関係を持つのだろう。
湯馬はなぜ違う女の子と‥‥‥?
何故湯馬は俺を見なかった?
俺はどうして、湯馬のことをかんがえてる?
俺は湯馬のことが好きなのか‥?
ーバシャッ!
‥‥‥あり得ない。
何で滑るんだこんなところで‥‥‥
「ーッ」
‥‥ヤバい、足を捻った。
‥‥‥何で、俺ばかり。どうしていつも、俺ばかり。
‥‥‥‥俺が全部、悪いっていうこと?
俺はいつだって、冷静に、慎重に、やってきたはずだったのに。
何で俺ばかり、こんな仕打ちにあう‥。
何で俺は、
どうして俺はー
‥‥‥何で今さら、泣いてんの‥?
ーー
「‥きゃー!!」
「どうした?」
「ひ、人が‥‥人が、あそこに、」
「おい君ッ、しっかりしなさい!君ッ」
「息してるけど、体が冷たすぎる‥」
「誰か救急車を!」
「足を捻ってるみたいだ、動かさない方が‥」
「あったかいの誰か何か持ってないの!?」
「早くしないと低体温で死んじゃ‥」
‥‥‥先輩、先輩。
‥‥‥‥先輩、
ー湯馬‥‥‥‥
「先輩‥‥‥‥!!」
意識の薄れ行く中で、
一瞬、湯馬の声が聞こえた気がしたけど、
それはきっと、気のせい。
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