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第7話 暴かれる真実(1/2)
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“‥‥俺以外の男と何やってたわけ?‥あぁ、もう嘘はいいから、ほら‥さっさと体出せ”
By雛原
ーー静寂は、静かに破られる。
俺と、湯馬のいるその後ろで、それは音を立てて崩れる。
唇の熱い感触から離れ、俺は現実へと戻る。
外ではにぎわう声が漏れていた。
前では湯馬が俺を見ていた。俺の後ろを見ていた。
俺は焦点の合わない目を四方八方に動かし続けた。
けれど何も、現実が変わることはない。
だってこれが現実だったから。
コツ‥という音が聞こえた。
聞くまでもなく、彼の足音だった。
俺は動けずに体を固まらせた。
全身の汗が吹き出るようだった。
手の先が冷え、唇までも冷たくなって、目の前にいるはずの湯馬が見えなくなる。
‥‥‥言うまでもなく、俺は怯えていた。
恐怖しか感じていなかった。
後ろの気配しか感じていなかった。
動機がひどい。
震えがひどい。
声が出ない。
何を、どうして、何を、どうしたら、
なぜ俺はここにいる。
何故俺は湯馬といる。
何故震えている、何で恐怖してる?
想定したことじゃなかったのか、
こんな日がこないとずっと思っていたのか、
来ないわけないのに、
くるとわかっていたのに、
分かっていたのに。分かっていたのに。
分かっていたのにー
「おい、」
‥‥‥ビクッ、
「あ‥‥。‥な、」
「お前さ、今何してたわけ?」
ービク
肩に、手が乗る。
息の仕方を忘れる。
もう、逃げ場をなくしたことに、今さら気づく。
怖い、‥あるのはそれだけ。
それ以外、何もなかった。
それ以外、何もなかった。
「おい、」
「あ‥あの、‥‥ちが‥‥‥あ、俺は‥‥」
声が、言葉がー
「何?ちゃんと喋れよ」
肩を持つ手に、力が入る。
湯馬が見ている。
俺は目の焦点が合わない。
腰が痛い、心臓が痛い、息が苦しい。
「ち、がうんだ、‥俺が怪我、して‥‥コイツは、俺のこと心配して、」
「うん、だから、何をしてたの」
「、‥だから、それは‥」
「‥‥‥」
「お、俺とコイツは‥‥何も、な‥‥‥」
ーガシャンッ!
ビクッ、
側にあった硬い銀色をした台が、音を立てて響く。
「ーひなは」
「‥‥嘘はもういんだよ、何をしてた、本当のこと言え」
「‥ちが、‥‥俺たち、は」
「言えっつってんだろ‥‥‥!!」
ビクッ
そばで声が聞こえ、俺は身を震わす。
ぐいっとついに後ろを向いていた体を彼の方向へ向かされ、殴られた腰が捻られ悲鳴をあげる。
「‥‥ッ!、」
「おい、何痛そうな顔してんだよ何被害者ぶってやがる」
「違っー」
「ー違います!!先輩は俺のこと庇ってくれたんです、それで怪我してるんです、やめてください、先輩を今動かさないで!!」
そうして聞こえる湯馬の声に、俺の心臓はまた速まる。
雛原の目が、湯馬に向かれ、嫌な汗が背中を伝う。
「へーぇ、‥あんたのせいで野上こんな目にあったの?ふーん、随分酷いことするんだな、あんた」
「すみません、」
「ーすみません?そんだけで済むと思ってんじゃねぇよガキ」
それに、ハッとしたときには遅かった。
‥雛原の拳は、湯馬の体めがけてヒットする。
ガタンッ!!とどでかい音を立てて、湯馬は床へと倒れ混む。
慌てて手を貸そうとするも、腰の痛みが予想以上にそれを阻害させできない。
「‥‥つーか、なめられたもんだよな。1年のガキにまさか浮気されるなんて思わないし‥お前俺のことおちょくってんの?」
「違いま‥」
ーガッ
目の前で、湯馬が再び崩れ落ちる。
目の前で、湯馬が雛原に殴られている。
俺のせいで。
俺がキスなんて、したから。
俺が湯馬を好きになってしまったから。
‥誰も悪くない、誰も悪くない。
悪いのは俺だ。俺だけだー
「雛原止めてくれっ!」
叫んだ声は、雛原には届かないー。
‥嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‥‥
こんなことで、また湯馬が殴られていいわけない。
湯馬は何も悪くない、悪くない。
「野上に告白したのお前だろ、湯馬だっけな?随分綺麗な顔してるみたいだけど、性格は最悪だな。ひとのもんに手出しやがって、ふざけんじゃねぇよ」
「雛原‥ッ!!」
湯馬が蹴られ、殴られる音がする。
どうしてこんなことになる。
どうして止める人はこういうときに限って誰もいない。
どうして彼が、こんな目にー?
「雛原‥ッ雛原、止めてくれ、止めてくれ‥‥!!」
ぎゅっと雛原の体をベッドに座ったまましがみつくけれど、雛原はそれを止めようとはしない。
いつまでやる気なんだ。
彼が死ぬまでやる気なのか
誰かが止めにくるまで続けるのか
どうして俺は‥何で俺は何もできないんだよ
「‥雛原、雛原!!」
「‥‥‥」
「俺が悪いんだ、こいつは関係ない!全部の非は俺にある、俺を殴ってくれ!それでいいだろ、こいつはもういいだろ!」
「‥‥‥うるさい」
「お前の言うこと、何でも聞くから、こいつとはもう会わないから、だから許してくれ、許してくれ‥‥こいつだけは、‥離してやってくれ!」
「ーうるせんだよ‥‥!」
バシッとほほを平手打ちされる。
体をよろめかすと、腰がまた傷んだ。
「どいつもこいつも‥‥庇いあいこみたいな真似しやがって‥」
見ると、雛原の体は少し、震えていた。
「雛は‥」
「‥‥許さねぇよ」
ーどくん、
「絶対‥‥許さねぇ‥‥‥」
雛原のその声は、言葉は、
これから俺の身にふりかざされるのだと、
‥‥俺は、そう静かに悟った。
ードサッ‥ッ!
その日の放課後、雛原は自分の家に俺を強制的に連れ込んだ。
階段を上がる間も後ろの襟を掴まれ、逃げられないことをまるで知らしめるかのような雛原の行動に、俺に抵抗する術などなかった。
自室へ入り雛原はすぐ俺を投げるようにベッドへ倒した。
俺はまだ痛みを持つ背中に声も出せずにただ唇を噛み、目を細めた。
近くで人の気配がする。
もう目の前には、雛原がいた。
「‥なぁ、俺前に聞いたよな?」
そう言った雛原の声は、恐ろしく低かった。
「続いてないか‥俺前もきいたよなぁ?」
「‥‥、」
その言葉に、俺は何も答えられなかった。
ただ全身からでる汗を止められずに、俺はまだ瞳を宙にさ迷わせていた。
頭には恐怖、そして先程の殴られていた湯馬。
それ以外何もなかった。
湯馬の笑みが、何故か脳裏をかすった。
雛原は、不意にその場を立つと、棚から何かをガシャガシャと出した。
それは金属製の音がした。
雛原が持っているのはSM用の首輪と、手錠だった。
「‥‥お前には、しつけが必要みたいだ。」
言って、雛原は上まで上げていたネクタイを指で下へと下げるのだった。
‥人は、時として残酷だ。
昨日まで好いていたはずだったものを今日になれば嫌い、‥明日になれば、また新たに違うものを好きになる。
それは当たり前と決まっていて、それは俺にでも、彼にでも言えた。
好きなんていうのは、一体どの感情のことを言うのだろう。
胸がときめくような、甘い気持ち?
心臓を鷲掴みにされるような、鋭い痛み?
…俺は確かに、雛原が好きだった。
整った顔も、笑みも、長い綺麗な手足も、俺にだけ見せる‥あの顔も。
彼の道具でも、何でもいいと、そう思えるほどに。
俺は確かに、雛原が好きだったのだ。
…
……けれどいつからか、それは俺の中で、一種の中毒になっていたのかもしれない。
そう、思うようになったのは、彼が現れたから。
…彼は、雛原とは正反対の男だった。
同じような雰囲気も、見た目もしているのに、その手の温かさは、向けられる笑顔は、…何も同じではなかった。
それどころか、全く違った。
…なにもかも、違ったと知った。
まるで沈んだ海の底へ、彼の手が差しのべたかのような感覚だった。
彼は俺だけを見つめていた。
俺が彼を見ていないときから、彼は俺を想い続けてくれていた。
俺は彼など見ていなかったのに、彼は俺を好きだと言った。
無理やりだったけれど、彼には愛情があった。
嫌だと抵抗していたけれど、それは雛原にばれることへの恐怖だった。
俺は、思えば彼に、一度も嫌悪を感じたことがなかった。
俺は歳月が経った今、今日、そんなことに今さら気がついた。
今ようやく、彼のことを好きだと知った。
俺は今まで、何を信じていたのだろう。
俺はどうして、いつもこうなんだろう。
あとには引けないこの状況になるまで、俺はどうして、何も言えなかったんだろう。
俺はどうして、何も気づけなかったんだろう。
気づいていたら、少しは変わっていただろうか?
俺も、彼も、そしてまた彼も…
…
………後悔の渦なら、いくらでも湧きそうだった。
ーーーー
ーー
………ピリリリリ、ピリリリリッ
「………」
………
…
ピリリリリ、ピリリリリッピリリリリッ
………
………………
ーピッ
………。
「………」
「……高藤、か」
……
「ーどうした、野上」
……
「………」
………
「………クス」
「………ー」
「…可愛い、野上」
……
………もう、
光はきっと
差すことはない
ーー
「野上~」
翌日。学校へ登校し教室へ入ろうとしてその声に俺は振り返った。
「何?」
そこには、おはようと言う、いつもの笑みを浮かべる高藤の姿があった。
「何って…素っ気ねぇなーおい」
高藤はこちらへ駆け寄り、そう言って苦笑いをした。
「ごめん、別にそんなつもりないんだけど」
言うと、知ってるよーと高藤は笑って言った。
「それよかさ、昨日はどうしたんだ?」
高藤は少し髪を整えながらそう尋ねてきた。
「え?」
俺は、その抽象的すぎる高藤の問いに、一つの間を開けた。
「何って…なにが?」
言うと、高藤ははぁ?と言って変な顔をした。
「ー何がって…お前なぁ。昨日、聞けば人に殴られて、おまえ保健室で寝込んでたってらしーじゃん。」
ードキ
その高藤の言葉に、俺は何故かどきんと心臓の音を鳴らした。
「あぁ…うん、まぁ…」
俺の頷きに、高藤は眉を寄せた。
「おい…なんだその曖昧な反応は。俺結構心配してたんだぞー」
「え?」
「のに、昨日すぐ帰るしさー。携帯にも電話したのに、シカトするし?」
高藤の言葉に、一瞬だけ声が出なかった。
「あ、あぁ、悪い。ちょっと急用あって、電話は…ごめん、出られなくて、悪かった。でも、全然俺、大丈夫だから、悪い、心配かけて、ありがとな、ごめん」
早口でそう言うと、高藤は一瞬俺を見て考えるようにして、ー目を反らした。
「いや…別にそんな謝んなくてもいいけどさ。ただ…大丈夫か聞きたかっただけだし」
高藤は、嫌に真顔でそう言った。
「あ…うん。そうか、…サンキュな」
少し、高藤の表情に何故だか内が乱された気がした。
「高藤、」
ービクッ
「おはよう」
「あ、おうっはよー」
………
「野上も…」
………ー、
「おはよ?」
…………
「……あぁ」
ーー
「野ー上、食堂行こ」
「え…?」
昼休み、高藤はそう言った。
「また…?別にいいよ、今日は」
フイと首を背け立ち上がると、高藤は俺の腕を掴んだ。
「ー…何」
「…行こうぜ」
「……」
…どうして、高藤はこんなことを言うのだろう。
偶然?……わざと?
いや、わざとなわけー
「高藤…あのさ、お前どうしてそんなに食堂にー」
「Aランチのセットが今日どうしても食べたいんだ頼む野上…!!」
………
…………
は…?
ーーー
「やー!やっぱり美味しいな~っAランチセットは…!」
「…」
「ほら、野上も食う?」
「や、…俺あるし。Bセットが」
「何で和風系だよっ、高校生男子なら、やっぱりオムライスだろ!!半熟卵、そしてその中にあるケチャップ味付けのご飯っ!ぜってーこれが良い!」
「…あぁそ」
高校生男子ならって…。
ただの舌がお子ちゃまなだけだろ。
「野上、ほら。これ半分やる」
「ーは?」
「栄養つけねーと、おっきくなれねぇぞ」
「…急に何キャラだてめぇは」
「いいからいいから、ん。野上のも半分もらうけど」
「あっ!ちょ、…エビフライっ!」
高藤はショックを受ける俺を見て、楽しそうに笑った。
…つーか、まじ何がしたいんだこいつ。
無駄にテンションの高い(いつも高いが)高藤を横目で見、俺はご飯を一口口に運んだ。
「あー…うん。確かに、あの子可愛い…」
「あれだろ?一年の…」
「隣彼氏だよなー絶対」
そうして不意に、側でそんなひそひそ声が聞こえた。
心なしか辺りがざわつき、俺は自然と顔をあげる。
そこに見えたのは、ーあの女の子だった。
歩いているだけで視線を向けられる彼女は、まるで有名人のように見えた。
隣には湯馬でない別の男が我が物顔で歩き、彼女と腕を組んでいた。
けれど一見ふわふわしているように見えて、彼女からは何か言い様のない強い芯のようなものも感じた。
彼女はそっちの方と繋がりがある、と…湯馬が言っていたことを俺は思い出していた。
「あの子って…確か一年の湯馬と噂なかったっけな…」
高藤はそれを見てそう呟いた。
「何でお前が知ってんだ?」
俺は持っていた箸を盆に戻しながらいつの間にかそういっていた。
「ー。え?」
そうして不意に聞こえた高藤の声に振り向いてから、俺はハッと目を開いた。
……
…、まずった…
「何でって……」
ー他人に無関心なお前がこれ知ってたらびっくりする
…もしかして…俺、知ってちゃいけないやつだった?……
「……ー」
どくん
どくん
どくん
どくん
どくん
どくん
急速に速まる心臓。
行き場のない手、目。
何で。
汗がー
「いや…」
「ーー………先輩?」
ーどくっ…と
その声に一際大きく心臓が鳴った。
「……ー」
振り向いたら、何となくいけない気がした。
横にいる高藤の顔を何故か見れなかった。
でも
「………先輩、……良かった。…来てたんだ」
…湯馬が、そんなことを言うから、
俺だってそれを無下になんか、できるはずもない。
「先輩、ちょっと…今良いですか?」
「……」
湯馬は、俺を映していた。
「……高藤、ちょっと…いいか?」
言うと、高藤は、何も言わずににこっと笑顔を浮かべた。
「ん、いいよ」
高藤は至って冷静だった。
何も聞こうとはしなかった。
でも。
ーけれどそれはまるで…
最初から俺たちがこうなることが分かっていたかのような、
最初からこうなることを知っていたかのような、
そんな気がして…
俺はすんなり、あぁ…と頷けなかった。
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