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第8話 選択のとき(1/2)
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“‥‥あなたのことは、俺が守ります。渡さない、もう誰にもーー。諦めませんよ、俺”
By湯馬
ーそれから約1月が経ち、俺は受験という事に頭をひたすら傾かせていた。
秋の季節は中旬か、それ以降へ変わり、風が冷たい冬の一歩手前の時期となっていた。
「ぅいーす」
朝。高藤は席に既に座る俺を見てそう言って手を軽く上げた。
俺はそれにおぉと軽く返してから、すぐ目線をノートに移した。
高藤は何だよそれーと言って不服そうな顔をした。
すると、後方の扉がひらいて、そこから雛原が入ってきた。
雛原はクラスメイトに笑顔で愛想を振り撒くと、こちらへやってきた。
「おはよう、野上。高藤」
言ってにこっと笑うそれに、高藤はおはよーと言った。
俺も同じように、おはようと、言った。
「今日宿題何っけ」
「英語と数学」
「やってねー!!数学してねーっ」
「見せないぞ」
「いやおまえさーあんならあるよってラインで送れよ」
「アホか」
「いやいやマジで」
俺は、高藤といつもの通りくだらない会話をした。
空は異様に高く、少しだけ曇りを見せていた。
雨が降りそうな気がした。
ー
「次科学室だって、野上」
「あぁ、」
日本史が終わって、次の授業は科学だった。
がた、と席を立って必要なものを持って教室を出る。
ガヤガヤと移動する生徒で周囲は賑わい、横で高藤が笑って何かを話していた。
斜め前には雛原が歩き笑っていた。
―全てそれは前からある日常だった。
けれどふと向いたグラウンド側の見える窓の方を見て俺は少しだけ瞳を揺らした。
「…でさ~…って、野上…?お前、聞いてる?」
「ーえ?」
「…おいおい」
言うと、高藤は肩を落とすような真似をした。
悪い、と俺が言うと、高藤はいいけどさーと言って苦笑した。
ー俺、湯馬 春斗って言います。今年入ってきた一年です
頭に浮かぶその言葉を、彼も、彼も、そして彼も、
誰も知るはずもない。
「野上、待ってて。」
放課後、雛原はそう言って教室を出た。
きっとまた、委員会か何かの用事だろう。
俺はそう思って、自分の席に座って机の上に頭を突っ伏せた。
5分、10分と時間が経ってきて、そうしていつの間にか教室には俺一人だけになっていた。
それはよくあることで、一人のその空間は慣れすぎていた。
ぼーと机に顔をつけたまま体を固まらせていると、不意に雨じゃん~っっという声が聞こえた。
つられ、窓際の席だった俺は顔を上げ、空をみあげた。
すると俺の予想は的中し、小雨の雨がポツポツと降り始めていた。
思えば、今日の夕方に降水確率が80%だったことを思い出した。
途端にきゃーと言って外で部活をしていた生徒が校舎へ消えていくのを肘をついて眺めていた。
その後、雨は小粒から大粒へと変わり、本降りとなり変わっていった。
「悪い、野上。待たせた」
しばらくして、雛原は戻ってきた。
「あぁ、うん。」
「一人で待ってたのか?」
「まぁ」
「そうか」
それにうん、と頷くと雛原は自分の鞄をがさがさと音を立てて帰る準備をしてから、帰るかと俺の方を見て言った。
俺が再びうん、と頷くと、雛原は肩に鞄をかけ教室を出た。
鞄を肩にかけ…俺もその後を追うようにして、同じように教室を出ていったー
ー外は、やはりまだ雨が降っていた。
「うわ、…どうしよ」
雛原は外を見て、うっとした顔をした。
雛原にしては珍しく、傘を忘れていたのだ。
ちょっとした小雨ならまだしも、本降りだから、走って帰るにもいかない。
雛原は俺を見て、ある?と言った。
俺はいや、と言って肩にかけていた鞄の中を手で探った。
折り畳みならあったかもーそう思った。
でも。ー
「あ、」
雛原が不意にそう言って見ていた携帯画面を見て声を出す。
俺は何故か嫌な予感がして、目をじっと雛原に向け立つ。
「…どうしたの」
聞くと、雛原はわり、と言った。
こちらを振り向いた雛原の顔を見ただけでその先の事を知ったように、俺は地についた足がすくんだ。
「なんか、ちょっと用事出来たんだ。ごめん野上、先行くな」
えー…?
それに、そう呟く隙間も与えず、雛原は言って雨の下を走って出ていった。
あまりに突然すぎるそれに、…俺は呼び止めることもできずにその場に立ち尽くしていた。
心がぽっかりと空いたように、空洞になっていくのだった。
ーザーッと降りしきる雨の前で、折り畳み傘を手に、俺はまばたきをすることさえ忘れたかのように体をいつまでも動かせず、固まらせていた。
…本当にバカみたいだ。
俺はただ、それだけを思った。
俺のこの性格ももちろんだけれど、彼はいくらなんでも勝手すぎる。
俺よりそっちが優先…?
あの日俺を殴って、湯馬を殴って、怒っていたくせに。
今に始まったことではないと分かっているのに、ーこの気持ちは何だ。
まだ彼に俺は何かを信じているのか?
まだ笑って俺だけを見てくれると願っているのかー…?
…いいや違う。
俺は彼を好きではない。
けれどただ、嫉妬しといておきながら自分は自由でいる彼が俺は憎いのだ。
それは大分前からわかって、約束されて付き合ってきたというのに、…それを許せない気持ちでいる俺は何なんだろう。
感情の意味が、俺にはあまり理解できない。
けれど、…理解できなくなったのは、彼のその自分勝手さに決まっている。
彼が正しくて、俺が誤った考えをしている?
…なんてそう思うこと自体、どうかしているとは分かっていても、はっきりと正解を言い切れるわけではない自分がいるのだー
本当に…
彼は、本当に怖い人間だ。
ーでも。
彼が怖いというならば、俺の方が当に怖いのだろうか。
そんなことを思って不意に歩く足を止める。
辺りを、ザーッという音だけが耳を包む。
…鼓動が何故か、少し速まっていた。
だって、いや、だって。
頭の中で、何度もその繰り返し。
でも、それに正解も間違いもないのだろうと思う。
けれど、俺はだって、いや、だってを繰り返す。
ほんのすこしだけ、頭痛が襲った。
…彼が、雛原がどうこう言うより、…どんな理由があったとしても、彼にまだこうして寄り添い続けている自分は、どうなんだろうとー…頭の中をそればかりが今さら駆け巡ったのだ。
ー彼が怖いから、こうして何も起こらないようにと思って、彼に別れを告げられない。
俺はずっとそう思っていた。
でも、…けれどそれは本当に俺の思い?
本当に彼が怖いだけ?
ー……クス、可愛い
違うんじゃ……ないだろうかー…?
だって、それを絶対なんて誰がどう言い切る?
ーー俺は彼など、初めから好きではなかった。
外見も、中身も。
けれどただ、俺がずっと好きだったのは
ー大好きなんだろ…?叩かれんのーー
ー。
え
え
え
いや
でも
いや。
…その言葉を出すことさえ、頭は許さなかった。
でも、
ーでも。
……でも、だけど俺はー
「オマエハオレノオモチャダ」
ーハッとして気づけばいつの間にか、目の前に彼がいた。
俺の前に立って、その手をこちらへ差し出し笑っている。
その手は何故か、真っ黒な色をしてー
「…野上、おいで」
彼は笑って言って近寄った。
目がこれまでにないくらいに笑っていた。
「ほら…ほら。おいで、俺のところに、俺のところに…お前はくるんだよ」
俺はその手を振り払った。
自分でも気づかないうちに、恐怖で体がぶるぶると震えていた。
…彼は、ー笑っていた顔を豹変させた。
「俺に口答えすんな…!」
ーバシッッ!!
雛原は俺に何度も手を振りかざした。
「ーッ、…た、い……痛い………ひな、は」
「喋んな黙れ!!お前は俺のモノなんだよ、モノならちゃんとモノらしく、俺の言うこと聞け!」
ーバシッ!!
再び手が振りかざされる。
俺はされるがまま動けない。
「……っお前はこうされんのが好きなんだよ!俺に叩かれることが嬉しくて気持ちよくてたまらない…!!アハハハハッッ、もっとねだれよもっとすがれよ!!」
「…ち、がう………違う、違う違う違う違う…………」
その言葉に、後退り、耳を塞ぐ。
「ー何が違うんだ……?いまだってこうして…好きでもない、俺といるじゃないか、怖くて仕方ない俺といるんじゃねえか」
「、な…んでそれをー」
彼に手を強く掴まれる。
ズルズルと深い場所へ引きずられていくー。
「離して、……離してくれ!!ーいや、嫌だ………!!嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……!!」
「言うこと聞け、」
「ーいや………!」
………湯馬。
…瞬時に頭に浮かんだのはその名前だった。
………
…そうして長らくして気づけばそれは、現実の出来事でないと知る。
けれどただ、頭が、心が、…まだ必死に彼を求めていた。
ー
助けて、………助けて
俺をここから救い出して……
俺をこいつから解放してー
俺を早く、お前の場所に……行かせて………
頼むー……湯馬…………
湯馬……
ゆうま………
湯馬、湯馬、湯馬、
湯馬、湯馬、……
…………
……………
ー不意に伸ばした手を、誰かが掴んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
…………………………
……………………
……
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