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ーー
「ーちょっと君、」
その日はそう…、年に一度の、体育祭の日だった。
俺は不意に掛けられたその声に足を止め振り返った。
そこには何と無く見覚えのある、二つ上の先輩がこちらを見て立っていた。
その人はすっと、あまりに大人びた顔をしていたから、最初誰なのかわからなかったが、すぐその後先輩といつも一緒にいるあの友達らしき男の人と分かって、俺は顔を少し上げた。
そしてその人は俺の方を見て、心なしか冷たい目を向けている気がした。
そうして君さ、という声が聞こえ俺は少し体を揺らした。
「…確か…湯馬春斗…だよね?」
フルネームを言われ、最初は少し驚いた。
「…えぇ、そうですけど…」
ぎこちなくそう肯定すると、その人はす、と不意に俺の方へ近寄り、俺の顔を至近距離で見つめた。
「ーちょ…、何なんですか、」
「ーさっきは何処に行っていたの?校舎の方から出てきたみたいだけど」
顔を背け、それからすぐ言われたその言葉に、俺は静かに心臓を鳴らした。
……さっき?
……校舎?
……この人はー
背けた顔を元に戻し、再びその人と顔を向き合わせると、その人は俺の瞳をじっと睨んでいた。
そしてその人は、君だったんだねーと言った。
「え?」
おれが言うと、その人は俺から身を離した。
それから怒るでもなく、悲しそうにでもなく、その人はただ無表情に俺ではない先を見つめ、言った。
「……さっき、誰と何処で何してたの?」
…その言葉は、
まるで、…罪を犯した俺を問い詰めるかのような、曇り一つない凛とした声だった。
「……ぁ、え…と」
ー俺はひどく動揺した。
冷静なその目つきに、それまでその人のイメージとして持っていた楽観的な人というそれを、大きく壊した。
今まで校舎内でやってきたことを頭に蘇らせ、俺は声が出なかった。
その人はしばらくして、まぁ…いいけどさぁと言って、遠くで聞こえる歓声の声に目を向けていた。
「…俺には別に関係のないことだしね、…君を咎めたとしても、君の首を絞めたとしても、俺と野上の仲では何の関係もないことだからねぇ」
「……」
…その人は、静かに再び、距離を開けたその姿勢で俺を見つめた。
表情は決して怒ってはいなかったけれど、その瞳には確かに赤い渦巻いた感情があった。
俺はそれを何も出来ずに無言で見つめ、そこにいた。
その人は少しして、向こう側から来る先輩に一足早く気づいて、俺から目を反らした。
「あ、帰ってきた…、」
高藤 実月はそう言った。そうして、
「ーお前、校舎にもう一回戻って」
彼はそう言った。
何でですか?と問うと、彼は向こうから来る先輩を見て言った。
「ハチマキ。あいつ頭につけてたのにないし、手にも持ってないみたいだし、中に忘れたのかと思って」
「ー」
ーそうしてそう言われたその言葉は、
その彼のこちらを見ない無表情の顔は、何よりも彼の静かなその悟りを、…その穏やかな怒りを、
…俺は感じるようで、ほんの少しだけ身震いをした。
ー校舎内に戻り、先輩のハチマキを探し、見つけ、俺は先程行った行為を思い出し、軽く唇を噛んで目を閉じた。
俺は先輩を、その時抱いてしまっていたからー
…そうしてふと窓の下をみたとき、先程のあの先輩と先輩が喋っていて、俺はそこから目を離せなかった。
先程とは打って変って違うその顔に、俺はただ持っていたハチマキを握りしめた。
不意にその人が先輩の手首を確かめるように掴み見て、先輩は慌ててそれを離させ、その手を隠した。
それが、このハチマキで縛った赤い跡だと、その人がすぐ気づいたと思うと、俺はその場を暫し動けなかった。
そしてその時思った。
…嫌でもわかった。
この人は先輩を好きー
……俺たちのした、そのことに気づくほど、この人は先輩が好きー…と。
…なのにあの人は、先輩に想いを告げないー。
そんなに、俺を殺気立つ目で見るくせに、彼は先輩に絶対に迫るような真似はしない。
先輩は鈍いから、彼の想いなんて知るはずもないんだろうけれど、もしそれがばれて、彼が自分を好きと先輩が知ったら、…先輩はどうするだろう?
今まで、雛原とかいう人には色々手も上げられてたみたいだし、俺はと言えば俺だって先輩に強制的な形で無理矢理入り込んだようなもんだし…
もし高藤…先輩が、先輩に好きだなんて言ったら…その時俺に勝ち目はあるんだろうか…。
ずっとそばで見守り続けた人に、俺が勝つ確率なんて存在するんだろうか。
先輩は俺を好きと、言ってくれて、だからこうして付き合っているけれど、俺は本当に、先輩のことを守れてるのかな?
ー「なんか…やたら近寄ってくるていうか…」
……男、か。
どうしてだ、何で。
もしかして、やっぱり、先輩変なフェロモン出ちゃってるのかな?
セックスするとそういうの無意識に出るって言うよな。
でも、前のあの人と付き合ってた時はそんな気配なかったのに、どうして今になって?
……
ー「……放っておけないんだわ」
……まさか、だよな。
彼が、先輩の一番近くにいた彼が、先輩に近づく輩を故意的に近寄らせないように仕向けてた…なんて、
そんなのきっと、俺の考えすぎに決まっている。
ー後日。
「ーせ~んぱいっ」
「どわっ…!」
その日土曜日で、俺も先輩も学校も何もなかったので、また俺は先輩の家にやってきていた。
ソファで座っていた俺たちだったが、俺は先日の高藤…先輩、の、言ったことが頭から離れなかったので、ふと横に向いてすぐいる先輩を、俺はどこにも行かせまいといった思いで力いっぱいぎゅううと抱きしめた。
こんなのガキで、ただの独占欲からの甘えた行為だなんて、そんなの分かってる。
分かってる…分かってるけれど、
だって、
取られたくないー……
誰にも…彼にも…誰にも…
「……湯馬?」
不意に呼ばれる、少し落ち着いた先輩の低い声は優しく、俺は顔を先輩の肩に埋めた。
先輩…と言うと、ん?と、先輩は尋ねた。
ぎゅうと密着した姿勢のまま、俺は口を開いた。
「…あのね、先輩…俺ね、」
「うん。」
「……俺、先輩のこと、好きなんだ。」
「…、ー…は?…お前何言っ」
「ー俺がね、俺が事故って、先輩が居て、俺その時先輩に惚れたんだ。」
「…え」
「先輩が偶然その場に居合わせてね、偶然見捨てれずに俺に付き添ってくれただけでもね、俺、…嬉しかった。嬉しかったよ……こんな人、いんのかって」
「……」
「…先輩は、俺に大丈夫?て言ってくれて、俺、その時もう先輩が好きだって思った、…こういうの、先輩は信じますか?…それとも、やっぱり信じませんか?馬鹿だって…思いますか?」
先輩はいつの間にか、俺の頭をポンポンと撫でていた。
「先輩、俺…」
「…なに?」
先輩のその声は、やっぱり優しかった。
「…正直言って…怖いんです。…俺、あなたのこと、すごい好きで、だから今まで、卑怯な真似沢山して…だけど、いざ手に入ったら、…怖い…。俺、すごく、怖いんです…どうしたら、あなたを繋ぎとめられるのか、どうやったら、あなたを俺しか信じなくさせられるのか…俺……」
「……」
「……おれ、…そんなことばっか、考えてるんです………、先輩……」
ぐっと先輩の後頭部にまわした手に力を込めると、先輩は何も言わなかった。
先輩には多分、俺の手の震えは、分かっていた。
「………湯馬」
「……」
「……もしかして俺のこと、疑ってんの?」
先輩は、ただ静かに、そう問いた。
「え…」
言うと、先輩は軽く息をついた。
「お前さ…さっきから聞いてればさ、馬鹿なの?」
ーえ、
「な、…馬鹿って、」
「ーあのさぁ、俺別にお前のこと嫌いになったとか、他に好きなやつできたとか、俺そんなこと一言も言ってないよな」
そ、…れは…
「…、だ、…だって」
「お前の気持ちは、十分伝わったよ。…つか、分かってるし。でも、それで急に何だよ。ー怖い?、つなぎとめる?……俺、そんなことされなくても別にどっかいったりしないから」
「……え?」
「……」
顔を上げ、先輩を腕から一度離し見ると、先輩は真っ直ぐ俺を見つめていた。
その目が綺麗で、赤いその唇が白い肌に映え、嫌に目についた。
「せん…」
ーちゅ
…………………え?
そうして数秒後、俺はその柔らかな感触に目を開きました…。
………え?、
「…、な、……先、」
視線を先輩に向けると、先輩は俺を見て、ふっと見たことのない不敵な顔をして笑った。
「ーばぁか。悪いけど、お前がいくら怖いって言ったって俺はお前と別れるつもり一つもねぇから。」
「……」
……それは、もうこれまでになく嬉しい言葉だったので、俺はその時の記憶があまりありません。
…でもちょっと、先輩が泣いてた…かな?
ー
「ーおいこら湯馬!、いいからも…、ーば、!もういい‼︎」
「もうちょっと…、もう一回だけ…ですよ、ダメ…ですか?」
「それはもう何回も聞いた…‼︎もういいもういい、もういい!離れろこの馬鹿!溜まりすぎにも程がある!」
「先輩可愛い…、声あげて、…俺のこと、そんなに潤んだ瞳で見つめてくるなんて」
「ー睨んでるんだよアホ…‼︎」
「先輩…、俺、先輩のこと、大好き……。これからも、ずっと、ずっと、俺のこと…好きでいてください…」
「…、…お前………なんなのもう……」
「…先輩…、…先輩……」
「ー‼︎んな、ちょっ…!触んなも、…んっ、…や、めろって…バカ、!」
「……」
「……の、………先輩の言うことを少しは聞け‼︎」
「……」
「……ん、ぁっ、」
「……可愛い」
「~~」
…後日、先輩は俺とまともに口を聞いてくれませんでした。
ーーー
そのまたその約一週間後。
「先輩!」
「ーどわ…っ‼︎」
「こんにちは。今日は先輩夕方までだって思って、学校からそのまま会いに来ました~」
「、いいよ来なくて…。つかお前分かってんのか、お前がここに来ることで俺は変に目立ってだな、」
「ー先輩は元から目立ってるんだからそんなこと言っても意味ないですよ」
「はあ…?」
そうしてそのまま大学の中庭で眉を寄せる先輩を、俺はぎゅうっと抱きしめると、周りにいた学生がこちらに好奇の目を向けた。
先輩は少し俺の行動に固まってから、俺の胸を強く押し返した。
「ーおま…っ、何やって、ーアホか‼︎」
先輩は言って少し頬を染めていて、なんというか、言ったら絶対怒るから言わないけど、超可愛い。
「先輩、俺のこと、怒ります?」
「ーな、はあ⁉︎怒るっ!怒るに決まってんだろば…」
「でも。…こんなとこで怒ったりしたら、もっと周りの目を集めちゃうかも。」
「、な、ん……、」
「(ニコ♪)」
「~~」
「ー何やってんだお前ら」
と、そこで後ろから現れたその声に俺と先輩は目を向けた。
「……こんにちは。た、か、と、う先輩」
そうして、にっこりとしてから俺はそう言うと、その人はこちらを見てから、同じようにニコッと笑い返した。
「あ~これはこれはこんにちは、湯馬春斗くん。しばらくぶりかなぁ?」
その絶対嘘だろという笑みに内心イラつきながらもにっこりしたまま見つめると、先輩が?を浮かべ俺たちを見る。
「何、お前ら…知り合い?」
「ん?あーいや、別に仲良いとかじゃないよ、ただ、名前だけ知ってるって感じかな」
「ふーん…」
その人が言って、先輩がそううなづいて、俺は少しだけその人の言うことに納得する先輩を目の前にして嫉妬する。
「…高藤先輩、ちょっとお話しがあるんですが」
言うと、高藤…先輩は、先輩から目を離し俺を見てから一瞬面倒くさそうな顔をしてからニコッと笑った。
「いいよ。何?」
それにイライラしつつも俺は先輩からその人を引っ張る。
「ーはい、何のようですか。湯馬春斗くん?」
その言葉にいらっとまたしながらその人を見ると、彼は優雅に笑った。
「…あの、ちょっと聞きたいんですけど、さっきの先輩と俺の抱き合ってたとこ見てましたか?見てなかったら別にいんですけど」
言うと彼はあ~と言った。
「うん、見てたよ。正確に言えば君が野上に一方的に絡んでるようにしか俺には見えなかったけど。」
……。
「…俺が、あんなことわざわざここでやった意味が何故だか分かります?」
「さあ」
「ー俺が先輩の彼氏だって、周りに知らしめるためです。」
「ーは?」
「そうすれば、先輩襲われる心配もなくなるでしょ?俺が彼氏なんだってわかったら、恋人がいるってわかったら、すっと身を引くと思うし」
「……。」
「それで、あなたも早く他の人好きになって下さいね、俺も先輩も別れるつもりは一つもありませんから」
一通り言うと、その人はしばらく俺を見てから、あはははと笑い出した。
「、ちょっ、…なんですか」
「…あはははっ、お前さぁ…なんていうか、」
「……」
「…これ以上俺の仕事増やさないでくれる?」
ーえ、?
「……ま、君がそれでいいと思うなら、いいんじゃない?守りたいって思ってやったことなんだし」
「、ーえ」
「…たださ、恋人いるって分かって、それですっと身を引くなんて…そんな単純なやつばかりが存在するとか本当に思ってるの?」
「……」
「君が一番…そういうことわかってる人だと思ってたけど。」
「ー」
ー人のもんに手出しやがって………っ
ーえ…?
…もしかして俺…………
俺は……
…間違えたとこを、した……?
「ーおい」
と、不意にぐいっと後ろの襟を掴まれる感覚に目を開く俺。
そのまま後ろへ体が傾き、何故か先輩は俺の体を引いた。
「え、ちょ……?、せんぱ…」
「…何二人でこそこそやってんだ?」
ー。
「…え?…いや、別に何も…」
「……馬鹿じゃん」
「…え?」
「…嫉妬、……するんだけど。」
「ー」
ーえ。
……嫉妬?
「…あの、…せん、ぱい?」
「……」
え、
…何その目の反らし方。
頬染めてそっぽ向いて、でも俺の襟首掴んでるこの感じ何……。
可愛すぎるんですけど……。
「おい、お前らここどこか分かってんのか、ここは大が…」
「ーだから何ですか」
「…は、」
「…だから、何だって言うんですか?俺はこれからも、先輩を好きでいるし、俺は俺のやり方で先輩を守ります。」
「…。お前なぁ…」
「…俺、…あなたには絶対、ーー負けませんから。」
その人は少し、俺を見て驚いてから、それからふはっと息を吐いて笑った。
「馬鹿じゃねぇの……。…俺は別に最初から、奪おうとか考えてねぇし、…俺に勝ち目なんか、そんなもん、初めからあるわけねぇっつーの……。…ばーか」
その人は少し、笑った顔をして泣いた。
ー
「ーおい、お前らまたこそこそ何話してんだ」
「え?あ、いえ…」
「俺と湯馬の秘密の話だ~」
「え?ーて、わっ!ちょっ‼︎高藤先輩急に何ですか!意味わかんないです腕回さないで下さ…」
「ふーん…そういうことか…。俺に会うとか言って、こいつに会うためにわざわざここに来たんだな」
「ーて先輩ちょっ…⁉︎、嘘でしょ⁉︎こんな分かりやすい冗談に何マジで引っかかってるんですか‼︎嘘です嘘!、俺は先輩一筋、俺はずっと先輩だけを見て…」
「ー浮気か」
「人の話をちゃんと聞いて下さいよ…‼︎‼︎」
…先輩はその後、俺とあまり口を聞いてくれなかった。(再び)
ーでも、
先輩が俺を選んでくれたあの日から、…俺は先輩を離そうだなんてそんなこと当たり前だけれど思ったことないし、そしてこれからもずっと離さないでいたいと思う。
例えそれをすることで、悲しむ人がいたとしても、俺はやっぱり、先輩が好き。
何よりも、誰よりも。
この人が、あの睨む顔が、笑顔が、優しさが。
俺は先輩が、全部好き。
だから先輩、
俺…一生あなたのこと、離しませんから。
もしあなたが、泣いて喚いて、嫌だと言っても…ね?
「ーわ、…何か今悪寒がした」
「は?冬でもないのに。気のせいだろ」
「…そうか。そうだな…」
「そうだよ」
【完】
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