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番外編 彼の素顔③高藤 実月の場合(1/2)
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「…本当の顔?…あー、そんなもの、皆隠して笑って演じて生きてるんじゃないの?」
By高藤
ーーーー
ーー
「い、…ぁっ!だ、駄目…もう、やめてくれ…お願い…雛ー」
「………やめねぇよ」
「‼︎、ーぁっ」
……人なんて、
絶対に見た目で判断してはいけない。
ー
「ーよぉ、野上。おっはよ~!」
俺が彼ー野上の席に向かいいつものように言うと、彼は席に座って、俺を一瞬だけ見てから、あぁ…と言うか細い声をただ出した。
睫毛を伏せて、唇を閉じ、何にも興味などない…そんな雰囲気を彼はそうやって常に醸し出している。
でも俺は知っている。
その仮面が剥がされる時があることを。
そしてその仮面を剥ぐのは、
「ーあ、高藤。野上。二人ともおはよう」
……誰なのかということもー。
彼ー野上 塁(ノガミ ルイ)と会ったのは、3年に上がった頃で、友達になろうとしていたのも、俺の方だった。
理由は至って簡単で、ただ単に彼は友達がおらず、それが寂しそうに見えたから、だった。
時折クラスメイトと会話はするけれど、これといった特定の仲の良い奴もいない。
表情も変わらないし、怒ったり、焦ったりするところも全く見かけない。
…もしかしたら友達が本心では欲しいと思っているのかもしれないが、それを表すことが彼にとっては困難なことなのかもしれないーだから、上手くそれを表現できず、今もこうして一人で席に座っているままなのか、と。
でも、それだけ思って彼に必要以上に声を掛けていた訳でもない。
だって、
それは
ーー不思議だったから。
…だって、考えてもみろ。
ーあんなに綺麗なかおをして、あんなに秀才でいるのに、彼はいつも何事にも無関心のままだ。
周りの女の子の目に気にも止めず、いつも何を考えているのか、ただシャーペンを持って、黒板を見て、ノートに書き、そしてたまに自分の席の左に見える窓からの景色を眺めるだけー
俺には、そんなこと考えられなかったから、だから不思議で、だから彼に興味を持った。
だから彼と友達になって、彼も俺に心を開いてきて、あぁなんだ…普通の奴なんだって、思いだしてもきた。
その頃、同じクラスに野上と似た…、彼ー雛原 総司という男がいたが、彼は野上同様頭の良さと容姿の良さを兼ね備えるだけでなく、多くの友達を持っていた。
人当たりも良く、笑顔も絶えない…。
その点で言うと、野上とは本当に非対称で、表面的に見れば、一般的にどの人間も頭が良く容姿が良くても、野上より雛原を選ぶ。
その方が普通だし、その方が無難なんだと思う。
けれど、俺は違った。
…何故か俺は、彼ではなく、野上 塁というクラスメイトの方が断然心惹かれる存在だった。
それに彼は…雛原という男には、何かがあるー、何か裏がある……と、
俺はそういう風にしか、その薄い笑顔から、思うことができなかったから。
まぁ…それは数日経ってから、俺の予想通りのものとして目に入ってきたけれど。
ー……ん、………ああぁあっ…
ー…でも。
まさかあの雛原と、…その真逆ともとれる野上が、まさか恋人同士だなんて……本当に考えもしなかった。
俺が知る限りでは、クラスにいる時はお互い挨拶もしない日もあるのに、それが皆が帰った放課後の教室で、まさかあんなことをしているなんて…誰が思うか。誰が考えるか。
……そして、その時の彼らの顔はただ俺の目を開かせた。
いつも優しい優等生で通っている雛原は、極自然に、それが普通であるように野上を見下ろし、野上を嘲笑い、手加減なしで野上をまるで、道具のように扱うー。
…その顔は野上同様綺麗で、そしてやはり雛原だったけれど、その夕日の差す放課後だけは、彼はまるで別人の、…卑劣な最低の人間だった。
そして野上は、雛原に服を剥がれ、舐められ、突かれ、押し殺したように、甘く、いつもの彼からは考えられない高い声をだして、その瞳から涙を流し、天井を見上げていた。
俺にはその野上の姿は正直可哀想でしかなく、見ていられずにその場を足早に去った。
あれはあの二人なりが恋人であるからこその何らかのプレイだったのかもしれないなどと思った…。ーが、後になってよく考え思い返せば、俺には、野上は雛原に無理矢理強制させられているようにしか見えなかったことでもあった。
そうして気付けば俺は頭に常にあの時の野上を思い出し、今自分の目の前にいる無表情な男と重ね見ていた。
俺の話に、うん、うん…とうなづく彼が、彼と話すときはどうなんだろうとか、彼は今何を考えているのだろうとか、そんなことを改めて思うようになって、俺は野上という男をもっと知りたいと思った。近づきたいと思った。
…いや、もしかしたら、そのどちらでもないのかもしれない。
多分俺は、彼を
守りたかったのかもしれない
雛原が彼に強制的に行為をしているしていない抜きにしても、野上は雛原が好きだと、その後視線の先を見ればすぐ分かることでもあった。
何にも興味を示そうとしないなんていうのは、やはりそんなのあり得なくて、彼はちゃんと、特定の人物に興味を示していた。
…俺はその事実に少しだけ喪失感を感じたが、俺にとって彼はただの友達で、野上にとってもただの友達でしかないから、興味を示す雛原にどうこう物言いなんて、できる立場ではなかったのだか、そのまた数日後、俺は女の子と会う雛原を見て、目を開いた。
もし、野上が雛原のことを本気じゃないのならいい…、どうだっていいこと、だとしても、そうじゃなくても、俺にはどうでもいいこと、どうでもいいこと。
それなのに俺は、俺は、
……俺は。
ー「何で、本命の奴がいるのに他の女の子と会っているんだ」
…俺は、
雛原 総司というクラスメイトに近づいた。
ー彼は多分、その時俺のことを見抜いていた。
……
…………
「……」
「……」
「…君は、野上のことが好きなの?」
「ー、……」
…声を掛けてすぐ、彼はそう言って俺を見た。
ただ口だけを動かして、微動だにもしないその背格好をして、彼は至って冷静だった。
あの日見た放課後の彼とは、どう考えても似ても似つかないただの別人ー。
ー
ー「…あ、あ~、まぁそうだな。野上は俺の友達だし、うん、好きだよーすごく」
ニコッと笑って言うと、彼はじっと目線を向けて、俺を見つめていた。
その瞳は、真っ黒なままにー…。
ー「……君ってさ、」
ー「うん、」
ー「……俺と野上を別れさせたいとか思ってる?」
ニコッとして言うと、…彼は静かにそう俺に問いた。
ー「ー、え…?」
ー「……」
ー「……」
………その時の彼はまだずっと、
じっと俺を見つめていた。
何故かその時、冷や汗が流れた。
けれどそれは、決しこの男が怖い訳ではない。
…ただ、この男が
俺の答え方次第で野上に何かをするかもしれないーと、
俺は、それが頭を過ったのだ。
……
ー「……」
ー「……雛原」
ー「……」
ー「……」
ー「……悪いけど、……俺はそんなつもり、一つもないよ。」
………
……
………長い、
長い沈黙の後、
雛原は
ー「…だったら俺に何も言うな」
……雛原は、その場を去った。
彼に何も手だしすることはできない。
俺が野上に良いと思って、雛原にどうこうしたとしても、それが彼にプラスが生じるということも絶対ではない。
それが彼のマイナス面にもなるし、それが彼にとってもしくは最悪の事態にももしかしたらなり兼ねない…。
だから俺は彼に好意を持って友達になって彼の不幸をも改善してあげたいと思ってもそれはすることができない。
彼の力になろうと思ったとしても俺は何も彼にできることはない…。
俺はただ見守る、友達としてある彼を、一番近くにいる状態で見守る、だからこそそれが俺の出した見解ー。
そうだった、そうだった…はずだった。
ーのに。
「ーえ…、」
ある日野上が机の中から取り出したのは、一通の白い手紙…
これはもしかしたら、
俺は思った。
書いてあることは、ーー屋上に来て下さい
そして、宛先は不明。
俺は思った。
「…行くのか?」
俺はいつの間にかそう問いていた。
「……行かないわけにいかないだろ」
…野上の言葉は、
予想していた言葉だった。
俺はその時、心臓が乱れた。
…野上は、あの告白だろう一件から、よく俺の前から消えた。
授業に遅れ入って来、しかも大層疲れた様子でやってきて、目線を落として自分の席に着く。
俺は隣の席だから彼の様子はよく横から見えていたけれど、その時の彼はペンは持っていても、前は向いていても、いつも頭は何か違うことを考えていた。
ーいや違う。
何かに悩んでいた……
その方が正しいのかもしれない。
………
ー体育祭の日。
俺は野上に告白しただろう後輩ー湯馬 春斗と接触した。
不意にテントからもグラウンドからも消えた彼を、友人が校舎の方へ誰かと行ったということを聞かなければできなかったことだったのだが、その時彼と話せて良かった。
それはいい意味でも、悪い意味でも。
ー「……何か手首、赤くない?」
湯馬と話した後にこちらへ来た野上にそう問うと、野上は明らかに動揺し、手首を隠した。
彼の頭に身につけていた赤いハチマキを取っているのが分かり、だから俺は湯馬を探しに校舎へ戻らせた。
その意味はもうどれほど馬鹿な奴でも分かる。
俺がわざわざハチマキだの、手首の跡だの言ったのは、彼を……湯馬を動揺させるため。
湯馬から、野上を解放させるため。
ー俺は、湯馬が野上を無理矢理抱いたことを知った。
ただ、殴りたいと思った。
……いや、殴り、た、かっ、た。
彼をどうしても、今ここで。どうしても。どうしても。
人目につかない場所で、思い切り、俺の気の済むまで、俺の怒りが収まるまで、彼の、野上の、彼の分まで、俺は、友達として、彼の友達として、無理矢理拘束して、卑怯な真似をして、雛原みたく、雛原もいるのに、何故彼ばかり、彼だけで良かった、雛原で十分だった、なのに後輩まで、後輩の立場で、俺の友達に、野上に、何故彼ばかり、彼はもういいじゃないか、彼ばかり不幸じゃないか、好くだけならまだいい、それなのにどうして、どうして、何故いつもいつもこんな手段ばかり、彼は報われない、報われない…俺が釘を刺さなければ、彼は幸せになれない、厄介者が二人いる………‼︎こいつはどうしても許せない……‼︎‼︎
…………
………でも、
……後輩の湯馬にだけ、こんなことをするなんて。
そんなのはやはり、俺自身が許さなかった。
いや、そうではなく…そんなものは、明らかに矛盾していた。
雛原は逃して…湯馬は殴る……
…だってそんなもの、所詮俺の自己満足でしかないじゃないかーー。
……そんなものを、俺は今してはいけないー。
いいや違う……。
今だけでなく、これからも。俺は彼らをただ見ているしかないー。
何故ならば、…これは俺の関することじゃない、
俺は野上の友達……、
ただ、それだけの存在…ー。
ならば俺は、彼や、…彼のように
感情的になってはいけないー…
……俺は、そう思った。
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