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金曜日11
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暫く歩いて後ろを振り返ってみた。
何て馬鹿な事をしてるんだろう・・・龍一が追いかけてくるとでも思っていたのか。
乾いた苦笑をして空を見上げた後、また歩き出す。
一歩ずつ、一歩ずつ
俺の足は駅に向かっている。
前に電話で言っていた淳の住む町に向かうためだ・・・。
家の場所までは詳しく解らないけど、とにかく今すぐに淳に会わなきゃ駄目な気がした。
さっき、あんな俺を見られたばかりだから正直なところ淳に会うのは凄く怖い。
どんな顔をして、どんな声色で、いったい何から話せば良いのか解らないし・・・淳は俺の話を聞いてくれないかもしれない。
気持ち悪いって、会えずに追い返されるかもしれない。
凄く怖くて、本当はこのまま逃げて時の流れの助けを借りたい気持ちでいっぱいだけど、時間が経ってしまったら駄目だ・・・と何となく思った。
俺の全てを淳に知ってもらった上で淳に告白する!・・そう決めたのは俺自身だ。
こんな形で淳に俺の秘密を知られたなんて冗談でも笑えないけど、結果的には良かったのかもしれない。
じゃないと、全てを打ち明ける決心が付かないから・・・
“雅人の事を一番知っているのは俺だよ”
ふと、龍一の言葉が脳裏をよぎった。
「龍一・・」
“きっとうまくいくよ。頑張って”
そう言った龍一はとても切ない顔をしていたな・・本当は応援なんてしたくないくせに・・・
龍一は誰よりも俺を理解している。
俺を傷つけた事を死ぬほど後悔していた龍一・・・
俺に大切な人が出来た時、その人に龍一との関係を黙って隠し通す事をしたくないという俺の性格までは龍一なら安易に予想できるはずだ。
.
.
「汚い嘘や隠し事なんか大嫌いだ!」
俺がまだヤンチャなガキの頃に言っていた言葉、それを聞いて隣で微笑んでいた龍一。
そして成長するにつれて臆病になっていく俺を...俺の全てを見てきた龍一だ。
俺がその人に全てを打ち明けたい気持ちと比例して、恐怖心が先に支配し、全てを話す勇気なんて無いことも解っていたのではないだろうか・・・。
そして俺が苦悩する事も。
「愛する人が幸せだったら僕も幸せだと思う」
俺よりも身長が小さく、まだか弱かった子供の頃の龍一が言っていた言葉を思い出した。
龍一との何気ない思い出を回想していた時に俺はある考えに至った。
...まさか、龍一は自分が悪者になる事を承知の上で、淳にあの行為を見せ付けたのか?
一瞬、心臓がキュッと締め付けられるような痛みがして、俺は自分の左胸に手を当てた。
・・俺が・・新しい道を歩めるように・・わざと?
俺を溺愛していた龍一は俺の裸を他人に見せることすら許さなかった。それなのに電話越しとはいえ俺が好きという淳に全てを知らせるかのように見せつけた。
今までの龍一なら人前で俺を犯すなんて絶対にしない。
独占欲が異常な程強い龍一は俺の裸体どころか行為中の喘ぎ声さえ他人に聞かれるような事はしなかった。
・・だから先程の龍一の行動が不可解でならなかったが・・・もし、もしも俺の推測が正しければ龍一は、俺が淳に全てを話せるように仕向けたという事になる・・・。
龍一は自分を犠牲にしてまで俺の幸せを選んだというのか・・・?
龍一のあの行動は、そうとしか考えられない。
俺一人ではとうてい打ち明けきれない重く辛い事実。龍一のあの行動が無ければ、いざとなった時、俺は淳に全てを話す決心がつかなかったかもしれない。
それゆえに俺はまた悩み苦しんだかもしれないが、一度全てを見られた事により俺は決心が付いた。
これ以上失うものが無いと思えるくらいに淳に俺の全てを見られた。
“雅人を幸せにしてやりたい・・・・本当は雅人の笑顔が見たいのに、雅人には辛い顔や泣き顔ばかりさせてしまっている”
龍一がさっき言った言葉。
これが俺の新たな恋路の手助けのつもりか?
こんな不器用なやり方が、今までの罪滅ぼしになると思っているのか?
「龍一の・・・大馬鹿やろう」
涙が零れ落ちないように夜空を見上げても、熱いものがこみ上げてきて止めど無く頬を伝う雫。
龍一の大馬鹿者。
不器用にも程がある・・・
「本当にバカだよ」
最後に龍一が見せた泣きそうな笑顔が俺の脳を支配する。
龍一の顔が俺の頭の中でちらつく
龍一の声が脳内に響く
最後に龍一としたキス・・・温もりとやわらかい感触が今もリアルに俺の唇に残っている気がして、龍一がしたみたいに俺も自分の唇を指でそっと触れてみた。
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