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さあ、お別れをしよう。(航太視点)*1
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俺は知っていた。
お前が俺に向ける、熱い視線も、朱く染まった頬の意味も。
熱の籠った目を向けられるようになったのはいつだったか。
記憶を辿ってみても定かではないが、ひとつだけ断言できることがある。
俺の方が先に、オマエのことを見ていたよ。
*****
「ねぇ、航太。聞いてるの?」
その声にハッとして顔を隣へ向けると、妻であるマミが口を尖らせながらこちらを見ていた。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしてて。」
俺はそんな当たり障りない返事を返しベッドに体を沈ませる。
………あぁ、失敗した。
またアイツのことを思い出していた。
目を閉じると脳裏に浮かぶのは、あの日のアイツの笑顔。
空港で見たアイツの泣き笑いのような笑顔は俺の脳裏に焼き付いて離れてくれない。
あれからもう8年もたつというのに。
ギシッと音がして目をあけると、マミが俺のベッドに入ってきていた。
ベッドは二人用のものではなくて、正直狭い。
けれどここ最近、マミはなぜか隣に置いてある自分のベッドで寝ようとしないのだ。
最初は狭いからと俺も声をかけていたが、無駄だと感じた今は無言でそれを受け入れる。
俺の顔を見つめながら遠慮気味に何かを言いたそうにしているマミ。
その姿に俺は頭にハテナマークを浮かべる。
「あ、あのね、航太。相談なんだけど………そろそろ私たちも子どもを持ちたいなって……」
その言葉に、なるほどと思った。
最近やたらこうやって同じベッドに寝ようとするのはそれが理由か。
「……だめ、かな?」
こてんと首を傾げ不安そうに俺を見つめるマミ。
その姿は可愛いと思うし、結婚してしばらくたつのだから確かにそろそろと思うのが普通だろう。
でも………、
「………ごめん。仕事で疲れてるんだ。その話はまた今度にしよう。」
俺はそうやんわりと断り瞼を閉じた。
隣で静かに嗚咽を漏らす妻に罪悪感を抱きながら。
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