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ミーン、ミーン…
ジーワ、ジーワ…
本日最高気温38度。
晴天の空、けたたましく鳴く蝉の声、庭に咲く向日葵。
まさに夏真っ盛りだ。
「ふぅー…暑い」
汗が喉を伝い、シャツの色を変えて行く…
そんな中、俺は一体何をしているのかと言うと…
「あ!羽山、あそこ!」
「へっ?…あ!エイッ!」
俺は、思いっきり腕を振り上げ、虫取り網を木の幹に押し付けた。
そう。俺は今、坊っちゃん達から命じられた蝉捕獲ミッションの真っ最中なのだ。
事の発端は30分程前、長谷川が旦那様のお仕事を手伝っている間、部屋で坊っちゃん達と一緒に図鑑を見ていたら虫を捕まえて観察したいと言い出し、それから今に至る訳だ。
頼む、今度こそ捕まってくれ〜
恐る恐る網を幹から外し、覗いてみると…
「やった!アキラ坊っちゃん!ユキト坊っちゃん!やっと採れま…」
あ…あれ?
何か、視界が…
歪む…
-ドサッ-
「あれ?羽山⁉︎羽山が倒れちゃった!」
「長谷川ー!長谷川ー!」
坊っちゃん達の声が聞こえる。
俺を呼ぶ声と…
長谷川を呼ぶ声。
ぼんやりと開けた視界の先に、網の中から逃げて行く蝉の姿が見えて、そして…
「羽山さん⁉︎」
力強く俺を呼び、駆け寄って来るそのシルエットを瞳に映し、俺はゆっくりと瞼を閉じた…
「ん…」
あ…冷たくて気持ちいい。
おでこと、頬にひんやりとした物が滑って、俺は自らそれに顔を摺り寄せた。
ゆっくりと目を開けると…
「…長谷川さん」
どうやら膝枕をされている様で、俺の真上には長谷川の顔があった。
だけど、長谷川の表情は意外にも険しく、無言で俺の首筋を濡れたタオルで拭き続けている。
「あの…長谷川さん?」
「……」
長谷川は、まるで聞こえていないかのように、俺を見据えながら、おでこの上のタオルを裏返して置き直した。
その優しい手つきとは裏腹、長谷川の眉間に寄せられた皺を見つけて、長谷川がなにやら怒っているのだと、気付いた。
「なんか…怒ってます?」
恐る恐る問い掛けると…
「怒ってるに決まっているでしょう!こんな炎天下に虫取りなど、貴方は考えが甘過ぎます」
長谷川は、そう言って、俺を叱咤した。
長谷川の言う通りだ。いくら坊っちゃんたちの願いを叶える為だと言っても、坊っちゃん達を危ない目に合わせてしまった。
「すいません…坊っちゃん達は大丈夫ですか?ちゃんと小まめに水分補給させてたし、塩飴も舐めさせてたんですけど…」
「それで、貴方はちゃんと水分補給していたんですか?」
あ…
「…忘れてました」
「まったく…」
長谷川はため息混じりにそう言うと、テーブルの上のグラスに手を伸ばし、水を口に含んで…
「ん…ぅ」
長谷川の唇が俺の唇を包んで、口の中に水が流れ込んで来た。
コクリと喉を鳴らして飲み込むと、スーッと身体の熱が引いて行く。
「私が、どれだけ心配したか…心臓が止まるかと思いました」
ゆっくりと唇を離すと、長谷川は俺の頭を撫でながら、絞り出すようにそう言った。
「…すいません」
「無茶はしないで下さい。もう、あんな思いはしたくない…」
真っ直ぐに俺を見つめる瞳に、熱の引いた身体が再び火照り始める。
一度水を得た魚は、もっと水を求めてしまう。いや、水だけじゃ無くて、唇の感触も…
「…長谷川さん…あの…」
「何ですか?」
「…おかわり…下さい」
俺がそう言うと、長谷川は一瞬驚いて目を丸くした後、フワリと微笑んだ…
「ええ…」
再び合わさった長谷川の柔らかな唇から、水が流れ込んで来て、俺の身体を潤す…
心ごと一緒に。
コクン…
貴方と過ごす初めての夏はきっと、これからもっと暑くなる…
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