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大神家の執事である俺達の仕事の始まりは、一日のスケジュール確認から始まる。
「14時に岡崎様をお呼びしてますので、ちゃんと応接間に集まれるようにしておいて下さい」
長谷川はスケジュールノートを見ながら、そう言った。
岡崎さんと言うのは、パーティ用の衣装のオーダーや、その他衣類の見繕いをお願いしている外商の方で、古くからお世話になっているのだそうだ。
何度かお会いした事もあるが、ロマンスグレーの紳士で、物腰柔らかな印象だった。
「岡崎様が来られるという事は、旦那様のお仕立てか何かですか?」
だいたいパーティ前や旦那様のスーツの新調に合わせて、お呼びしている事もあり、今日もそうなのだと思い、長谷川に問い掛けた。
「いえ、今日はまた別件でお呼びだてしています」
「別件…って一体?」
「それは、いらっしゃってからの、お楽しみです」
長谷川はそう言って笑顔ではぐらかした。
長谷川がほんの少しだけ浮き足立っている所を見ると、悪い事ではないのだろうけど、秘密にされると知りたくなるのが、人のサガ。俺は、長谷川の顔色を伺った。
「…そんな可愛い顔して見つめても、教えませんよ。さぁ、坊っちゃん達を起こして来て下さい」
長谷川はパンパンと、手を叩くと、勝手に、朝礼を終了させた。
「…はい」
俺はそう言った後、声には出さず、
‘ケチ…,
と、小さく口だけを動かす様に、長谷川に向かって、そう言った。
「何か言いましたか?」
呆気なく見つかってしまい、俺は慌てて、長谷川に背中を向けた。
「な…何でもありません!坊っちゃん達、起こしに行ってきま〜す」
気になって仕方が無いけど、お楽しみは14時までお預けみたいだ…
お昼過ぎ。
坊っちゃん達の部屋で、お世話をしていると、車の音がして、窓の外が騒がしくなった。
ふと時計を見ると14時少し前を指していて、岡崎さんが来られたのだと直ぐに分かり、慌てて階段を駆け降りた。
玄関へ向かうと、すでに長谷川が荷物を運ぶのを手伝っている所で、玄関先には大きなスーツケースが5つ程並べられていた。
一体何が入っているんだろう?
「羽山さんはお茶の準備をお願いします」
「あ、はい!」
長谷川の指示に従い、キッチンへと向かう。
お茶の準備をしている途中にも、スーツケースの中身が気になって、俺はいそいそと、ティーポットとカップなどを抱えて、応接間へと向かった。
-ガチャ-
「お待たせしまし…⁉︎」
扉を開けてすぐ、俺の目の前に広がっていたのは…
青、紫、黄、緑、白…
様々な色と柄の布。
「あの…これって…」
「えぇ、浴衣です」
長谷川が、目を丸くする俺を見て、クスリと笑いながらそう言った。
「僕この水色がいいな〜あ、やっぱりこっちがいいかな〜?」
「僕は何色にしようかな〜」
鏡の前で、岡崎さんに袖を通されながら、坊っちゃん達は楽しそうにはしゃいでいる。
「ね〜長谷川と羽山は、どんな色にするの?」
「え…?」
突然ユキト坊っちゃんにそう聞かれて、まだ状況が飲み込めていない俺は、首を傾げた。
どんな色にするって…?
「あ、お二人の分はこちらに用意してますので、どうぞお選び下さい。お気に入りが見つかればいいのですが…」
岡崎さんは別のスーツケースを開けて、中身を取り出した。
黒、紺、藍、鼠、茶…
こちらは、大人っぽい渋めの色で粋な柄の浴衣が沢山。
「あ、ありがとうございます岡崎様…って、俺達の分って?…長谷川さん、どういう事ですか?」
「今週の日曜日にあるお祭りに、みんなで着て行く浴衣を岡崎様にお願いして持って来て頂いたんですよ」
お祭り?…あ…
この間、長谷川と一緒に買い物に出掛けた時、街の掲示板に『夏祭り〜納涼花火大会〜』と大きく書かれたポスターを見つけたんだった。
「もしかしてこの間、街の掲示板に貼ってあったポスターのお祭りですか?」
「えぇ、旦那様にお話したら、せっかくなら皆で浴衣を着て行くといいと、提案して頂いたんです」
そう言えば、ポスターを見つけた時、
‘夏祭りに花火大会か〜もう何年も行ってないな…,
そんな事をポロっと、呟いたのを思い出した。
もしかして、俺の為に旦那様に掛けあってくれたのかな?
「長谷川さん、ありがとうございます」
「いえ、お礼なら旦那様に」
「でも、ありがとうございます」
俺が、改めてペコリと頭を下げて顔を上げると、長谷川は俺の思いに気付いたのか、
「はい」
そう頷いて、微笑んだ。
そして俺達は、思い思いの浴衣を選んだ。
俺は、藍色の格子柄。長谷川は紺色の縞柄。
坊ちゃん達は最後まで悩んで、仲良く同じ水色の紋柄違いの浴衣になった。
夏祭りが楽しみだ。
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