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-カラン、コロン、カラン、コロン-
四人分の下駄の音を響かせながら、神社までの道のりを歩いていくと、少しずつ祭り囃子の音が近付いて来る。
この階段を登った先にどんな景色が待っているのか、年甲斐も無く子供の様にワクワクしてしまう。
「お二人共気をつけて。ゆっくり登って下さいね」
長谷川がそう声を掛けると、慣れない下駄で足元が危なっかしい坊ちゃん達の手を繋ぎながら、一段一段登って行く。
左から、長谷川、ユキト坊ちゃん、アキラ坊ちゃん、俺。
しっかりと4人、手を繋ぎながら階段を登りきった先には…
「わぁ…」
提灯の灯りが燈る長い石畳に、色とりどりの艶やかな浴衣に身を包んだ沢山の人々。
たこ焼き、綿あめ、かき氷、水風船に、射的、金魚すくい…
連なる夜店は楽しそうな笑い声が溢れ賑わいを見せていた。
「すごい、こんなに大きなお祭りだったんですね」
「ええ、この辺りだと一番大きなイベントみたいですね。花火は19時半からなので、それまでお店を見て回りましょう」
「そうですね…っわ!」
「早く行こー!」
「行こー!」
手を繋いだまま、坊ちゃんが走り出して、俺と長谷川は二人に引っ張られる様に夜店の列へと向かった。
「コレやりたい」
そう言って、アキラ坊ちゃんが足を止めたのは、射的の夜店の前だった。
「あれ欲しいな〜」
ユキト坊ちゃんも便乗してそんな事を言い出した。
ティラノサウルスのフィギュアか…さすが男の子チョイス。でも、意外と重そうだな。
「うーん、これはちょっと坊ちゃん達には難しいかもしれませんよ」
俺がそう渋ると
「「えーやりたーい!」」
坊ちゃん達の合唱が始まってしまった。
「長谷川さん、どうしましょう?」
困った時の長谷川頼みと言わんばかりに、長谷川に視線を送ると、苦笑しながら頷いた。
「いいですよ。その代わり球数は5発なので一人一発です。残りの一発は…ジャンケンで決めましょう」
長谷川はそう言うと、ねじりハチマキに、甚平の、いかにもテキ屋な出で立ちのおじさんに、料金を渡して銃を手に取った。
「さぁ、誰から行きますか?」
「ボクからやるー!」
アキラ坊ちゃんが手を上げると、長谷川はアキラ坊ちゃんの背中に回り込み、後ろから腕を支えた。
「いいですか、しっかり狙って、思い切り腕をのばして…そのまま…はい、ココを引いて下さい!」
「エイ!」
その合図に勢いよく、コルク球が飛び出して…フィギュアのすぐ横を掠めて行った。
「あー惜しい!」
「じゃあ、次はユキト坊ちゃんどうぞ」
今度はユキト坊ちゃんが台の上にに立ち、アキラ坊ちゃんと同じ様に、長谷川に支えられながら、球を打つも、結果はアキラ坊ちゃんと同じだった。
続いて長谷川は、かなり惜しく、尻尾の方に当たりグラグラしたが、倒れはしなかった。俺に至っては掠りもせず、肩を落とした。
「なかなか難しいですね」
「「ねー」」
坊ちゃん二人の残念そうな声に、応えてあげたかったな…そう思いながら最後の一発を決めるジャンケンをすると、何と事もあろうに俺が、勝ってしまった。
「うぅ…責任重大じゃないですかコレ…」
「羽山がんばってー」
無邪気な坊ちゃん達の声が、さらに俺のプレッシャーを煽る。
嫌な汗が頬を伝い、引き金を引くのを躊躇っていると…フワリと背後から腕が伸びて来て、俺の身体を包み込んだ。
「私が支えていますから…安心して引き金を引いて下さい」
そう長谷川に耳元で優しく囁かれて、何だか、凄く安心する。
「…はい」
長谷川の鼓動と、息遣いを感じながら、心を落ち着かせると、意を決して引き金を引いた。
-バチン!ゴトッ!-
球はフィギュアの頭に当たり、見事に棚から落ちた。
「やった!取れた!」
「お見事です。羽山さん」
「わーい、羽山ありがとう!」
思わずみんなでハイタッチをして、景品獲得に大喜びした。
楽しいな。童心に帰るって、こう言う事を言うんだろうな。
「次は…何か食べましょうか?」
「そうですね、色々あって迷いますね?」
そんな事を言いながらキョロキョロと夜店を眺めて歩いていると…
「あ、羽山さんが好きそうなのがありましたよ」
「え?」
そう言って、長谷川が指差したのは、チョコバナナの店だった。
「ん?俺、好きそうですか?」
確かに美味しいだろうけど、俺、好きだって言った事あったかな?
「えぇ…何と無く。食べてる姿が似合いそうだなと思ったので」
似合いそう?…ってもしかして…
「長谷川さん。変な事想像してるでしょう?」
「おや?変な事とはどんな事でしょうか?羽山さんはナニを想像したんですか?」
長谷川はニヤリと笑ってそう言った。
くそぅ…何だよ!変態なのは長谷川なのに、俺の方が変な事考えてるみたいじゃないか!
絶対チョコバナナなんて食べてやるか!
そう叫び出しそうな気持ちを抑えつつ
「…りんご飴にします」
俺は長谷川の問いかけを無視して、淡々とした口調でそう言った。
「おや、残念です」
長谷川はそう言って笑った。
そんな長谷川を尻目にお店のおじさんから、りんご飴を受け取ると、口をつけた。
甘い、紅い色のアメでコーティングされた中のりんごごと、一口囓ると、甘さの中に、酸味が広がって、幼い頃の思い出が蘇る。
懐かしいな。子供の頃、縁日といえば、りんご飴が定番だった。
考えたら、この食感や味って、りんご飴でしかなかなか味わえないんだよな…
「りんご飴も、なかなかいいですね」
夢中になって食べていると、長谷川に突然声を掛けられて、訳が分からず首を傾げていると、
「唇が紅く染まってます」
「へ?…あ…」
俺は思わず、りんご飴を口から離して拳で唇を拭った。
薄っすらと拳に滲む紅い色。
食紅で彩られた飴の色が、俺の唇を紅く染めて…
「甘くて、美味しそうです」
長谷川の指先が俺の唇をなぞろうと伸びて来て、俺は慌てて長谷川に背を向けた。
「お…俺の唇は、食べ物じゃありません…」
「フフ…後でゆっくり頂きます」
その言葉に、俺の顔も、きっと真っ赤に染まっているに違いない。
まるで、りんご飴みたいに…
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