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2009年2月17日 今思えば、運命の出会い
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『寒いけど~、暇だからねぇ』
…こんな寒い日に外に出ようなんて思った数分前の自分を殴りたくなった。
「さむぅ……」
ジャンバーを羽織
はお
って外に出てみたが、出来ればあとカイロとマフラーと手袋とヒーターとコタツが欲しいと切に思うぐらい外は寒かった。
冷たくなってしまった手に息を吹きかければ、その吐息が寒さのせいで白くふわふわとした綿の様に見える。
それを見て、やっぱり戻ろうかなんて思っちゃうが、それでも僕は一人寂しく舗装されている道を歩き続けた。
目指すはさっき見えた中庭の木の所。とりあえずそこまで行ってみよう!と決めてはみたが…けど、やっぱり
「さっむさむ」
寒がりには優しくない寒さだ。
と、いうことで。
「あったか~」
僕は体を暖(あった)める為に自動販売機で買ったコーヒーを両手で握りしめた。
「ぬくぬく~」
しかも嬉しい事にお気に入りのメーカーのコーヒーがあったのだ。
掌の幸せに思わずニコリと笑みがこぼれる。
「けど、ほんと寒いなぁ」
見上げれば空を覆う雲が先程より黒く染まり、辺りが暗くなってきている。
試(ためしに耳を澄ましてみても、しぃんとしていて僕の耳には音が届かない。
病院前の大通りに沢山の車が走っているというのにだ。
「…ほんと、雪ふるかもねぇ」
けっこうな寒がりだけど雪は好きなので、降るのだとしたらとても楽しみだ。
僕は空を見上げたまま、またにっこりと笑った。
「んっ……」
うん。ちょっと首は痛いけど、やっぱりこの缶コーヒーは美味しい。
けどいつもならもっとコーヒーの美味しさにうっとりと出来る筈なのに、ガンのせい美味しさが半減してしまっている…最悪。
けど綾川先生が言うには、化学…放射線療法だっけ?その治療をやってガンが治っていけば、このしこりの痛みも和らいでいくらしい。
だけど、痛みが和らいでいくといっても、今はこの痛みのせいで嫌でもガンの事を思い出してしまう。
上咽頭ガン。喉の奥にある悪性腫瘍。それが僕の罹(か)かっている病気。
「ガン、ねぇ…」
まさか自分がガンになるなんて思ってもみなかった、というのが今の正直な気持ちである。
だって今の僕は誰がどう見たって健康だ。
別に倒れたわけでも寝込んだわけでもないし、一昨日の体育だって普通にサッカーをやってゴールも決めた。
ガンになったからと言っても体調に変化があったわけでもない。そう、何も変わっていないのだ。けど、
「ガンなんだよね、僕」
強く押すように首に触れれば、ピリッとした痛みと共に主張するしこり。
自覚は全然ないのに、その存在のせいで自分はガンじゃないって、叫ぶことが出来なくなった。
けど、別に悲しいとか、治らなかったらどうしよう、とかは思ってなかったりする。
それはきっと、ちゃんとした意味で自覚していないのだ。自分がガンだという事を。
「まっ、自覚する前に治っちゃえば問題ないけどね~」
でもさ、ごく普通の学生がいきなりガンになる、なんてまるで…
「ドラマみたい」
そう、ドラマ。けど主演を演じるのはイケメン俳優ではなくて僕だけど。
あ、別に僕がブサイクって言う意味じゃないよ?女の子にはふつーにモテるしね。
バレンタインチョコとか誕プレ(誕生日プレゼント)とか沢山もらいますし?
意外と人気ものなのですよ、僕。
あ、で、そう話を戻して。
去年にあったのですよ、こう、ガンになった女性が~っていう感じのドラマが。
そのドラマはありきたりな内容だったけれど、演じてた役者さんが今人気のミカちゃんっていう可愛い子で結構流行ったんだよね。
そのミカちゃん演じる女性も医者にガンを通告されて一人散歩しながら、悩んじゃうだよね。
『これからどうすれば、いいの、かな…』
傍から見るとこの女性はこれから死んじゃうんじゃないかっていう感じで歩いてるんだ。そうまさに、
「あの人みたいに…」
目的地である、中庭の木の下に座っているあの青年
ひと
みたいに。
「……どうしよう、かな…」
木の下に膝を抱える様にして座り込んでいる青年を見ながら、僕は小さく唸る。
こんな寒い日にあのままだとあの青年(人)風邪ひくよね……
ここにいるって事は診察に来た人だよね、なら病院に戻った方がいいに決まってる。
あ、でも戻ってもすぐには暖かくならないから…あ、缶コーヒーでも買っていこうかな……って
「…あれっ…?」
僕、何を考えてるんだろう…?
寒くない?風邪をひかない?ただ見かけただけの他人に僕は何を心配してるんだろう?
きっと関わらない方がいいのに。普段の僕なら絶対関わらない様にと回れ右して病院に戻っている筈だ。
なのに何故か僕の体意志に反して、動かすにただ青年を見ているだけだ。
「ほんと、どうしたんだろうね」
もしかしたら僕自身の状況が追いついてないから、いつもと違う事を考えて変な行動をとろうとしてるのかな?
いつもと違う自分と、なんだか気になるあの青年(人)とに戸惑いながら僕は小さく苦笑した
?
「こんにちは」
色々考えていたというのに、結局僕は青年にそう一声かけていた。
「もし良かったらどうぞ?」
僕は木の下に座っている青年に温かい缶コーヒーを差し出す。
その時、きょとんと僕を見上げる青年の表情が思ったより可愛かったので、おもわず小さく笑ってしまったのは気にしないで下さい。
僕は青年が警戒心を抱かないように笑みを浮かべながら、缶コーヒーを受けとらない青年に無理やり缶コーヒーを渡した。
「今日は寒いですね~」
「あ、あぁ…」
「隣に座っていいですか?」
なんて聞いてみたが、僕は青年の言葉を聞かずに勝手に座ってみる。
隣から拒否の声が無いので…いいってことかな?
僕は勝手に完結させて、隣の青年ににこっと笑いかけた。
「初めまして、僕は朝霧旭っていいま~す。」
???
これが初めて君と逢った日のこと
君の第一印象は…イケメンだけど可愛い人(なんか犬っぽい?)
そう思ったのはきっと、いきなり話しかけて、いきなり隣に座った僕を驚いて表情
かお
で見ていたから
僕はそんな表情をする君に、内心笑っていた(のは秘密だよ)
でも今思うと、この時の僕は、既に君に惹かれていたんだと思う
だって辛そうな表情
かお
する君を、どうにかして笑顔に変えたいと思ったから…
???
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