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「誰?」
突然病室に入ってきた男の人。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、こちらにゆっくりと近づいてくる。
第一印象は、チャラチャラした人。
それと、
「・・藤・・・・間・・・・」
海斗を、怯えさせる人。
「あの、」
「早坂。お前、記憶喪失なんだってな?」
「ぇ・・・」
僕に向けられた、見覚えのない単語。
記憶喪失。
「・・なんの、こと?」
なんのことか、わからなくて。
そこでハッとした。
―そういえば、僕は。
自分がどうしてここにいるのかも、わかっていないんだ。
事故に合ったということはわかっている。それは父さんからすでに聞いた。
でも、それ以外。
それ以外のことは、何も知らない。
「俺のことも忘れてんだろ?」
は、と。男が鼻で笑う。
相変わらず、その表情は不機嫌そうで。
「君は、誰?」
そう問うと、目を細めて更に眉間に皺を寄せた。
「藤間陵」
トウマリョウ。
その名前は、なんだか聞いたことのある気がした。
「お前は、藤間って呼んでたぜ」
親以外に名前で呼ばれたこと無ェけど、と付け足す藤間。
(・・・・あ、)
今、一瞬。
泣きそうな顔をした。
「・・・大丈夫?」
泣きそうな顔は、一瞬で消えて。
それでも、気になってしまった。
どうして、泣きそうになったんだって。
そう思ったから、聞いてみたのだけれど。
そうしたら、藤間は怪訝そうな顔をした。
「・・変わったな」
「?なにが?」
「お前」
「・・・そうなの?」
「お前、前は俺に大丈夫かとか聞いたりしなかったからな」
「随分冷たい人だったんだね」
そうだな、と言ってくつくつと笑う藤間。
まるで他人事だと思った。
僕と藤間が話しているのは、僕のことなのに。
藤間から発せられる僕は、まるで別人で。
僕はそれほど優しい人間でもないけれど・・・・ないと、思うけれど。
人が苦しそうにしていて、気にしないほど非道でもない。・・・と思う。
「・・・はは、」
力のない笑いを零した。
藤間が、現れた瞬間。
”記憶喪失”という単語を聞いた瞬間。
自分の思考が、曖昧に。
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