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2.圭一side.
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「昴くん、入るよ」
コンコン、とノックをしながら。昴くんのいる病室の扉を開ける。
中に入ると、読んでいたのだろう本から目を離して、こちらに笑いかけてくれた。
「おはよう、父さん」
「おはよう。ごめんね、こんな早くに」
「大丈夫ですよ。それに、もう昼じゃないですか」
相変わらずの敬語。昴くんが中学生のときに、一度敬語をやめるよう言ったことがあるけれど、あっさり却下された。理由はわからない。
僕としては親子らしく会話がしたいし、敬語じゃないほうがいいのだけれど。
昴くんが敬語がいいと言うから、そのままにしているわけで。
「調子はどう?」
「大丈夫です。そんなに痛みもないし」
「そっか。先生がね、リハビリが終われば退院できるって言ってたんだ」
「本当ですか?」
「うん。そうしたら、退院祝い、しなきゃね」
「はは。ありがとうございます」
「・・・海斗くんも誘おうと思ってるんだけど、いいかな」
昴くんが退院したら、海斗くんは心から喜んでくれるに違いない。
それに海斗くんは毎日お見舞いに来てくれてるようだし、なにより息子の恋人だ。だから誘うと決めているのだけれど、昴くんはどう思うだろう。
記憶を失くしてる彼にとっては、海斗くんは他人。
そんな人を誘っても、気を遣ってしまうかもしれない。そんなことになったら、海斗くんがかわいそうだ。
そんなことを思いながら聞くと、昴くんの笑顔が少し曇った。
「・・昴くん・・・?」
「・・・・・・・あの、」
「うん?」
「海斗、は・・・・・僕の、なんですか?」
「え?」
「海斗は、僕に、好きだと・・・・言ってきて。僕はべつにそのことを不快には感じなかったし、男が男に好きだと言ってる事実も、あっさり受け入れることができた。・・海斗に対して、変な人だって、それくらいしか思わなかった。でも、・・・・・でも。それ、だけじゃ・・・ないような気がして・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・昨日、・・・友達、かはわからないんですけど。人が、来て・・・」
少しずつ少しずつ、消えていく笑顔。
泣き出しそうに、見えた。
「・・僕が、記憶喪失、だって」
「・・・!」
「・・・・・・・・父さん、僕は・・・・・そうなんですか?」
「・・・・・、」
「僕は、記憶喪失なんですか?」
「・・・・っ、」
「そう、だと、したら・・・・・僕は一体、何を」
「・・・昴くん、」
「僕は、何を忘れてるんですか?」
息が止まった。
昴くんは、何を忘れているかすら、知らない。
――あぁ、そうか。だから。
昴くんが記憶を取り戻さない理由は、ここにあった。
・・・思い出すはずがないんだ。
何を忘れているのか。それすら、わからなくちゃ。
海斗くんが毎日ここに通っても、忘れたことすら、忘れているのなら。
思い出すはずがない。
「・・・・・・・・昴くん」
自分の掠れた声が空中に浮く。
「それは、僕からは言えない」
大切な、人のこと。
それは、自分で思い出してあげて。
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