アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-
「・・ん・・・・?」
目を開けると、そこには女の人がいた。
その、ふわりとした、それでいてしっかりした笑顔が、なんだか懐かしくて。
なんだか胸がくすぐったくなった。
「泣いてるの?」
その人の手が、目尻に触れる。
冷たい、というよりも、そこから風が吹いたような感覚。
それなのに温かい。
―あぁ、安心する・・・・・。
こんなに心が落ち着いたのは、何日ぶり・・・。
いや、何年ぶりだろうか。
「・・・ううん、泣いてない。泣いてないよ」
頬には何かが乾いた感触。
それはきっと涙なのだろうけれど、その人にはそうごまかした。
「いいことを教えてあげる」
目を細くして微笑んだその人は、俺の手を優しく握った。
手全体が風に包まれる。
「悲しいことがあったの?」
心配そうな声。
「悲しいこと・・・・・?」
悲しいことなんてあっただろうか。
・・・・いや、ない。
考えても、それは浮かばなかった。
だから、笑顔を作って答える。
「ううん、ないよ」
大丈夫だよ。
「そう・・・・あのね。これは、もしも悲しいことがあったときの、おまじないなの」
「おまじない?」
「そうよ。これは、おまじない」
手が裏返され、手の平が上になる。
そこに、その人の細い指先が降りた。
「悲しいことがあったらね。手の平にこれを書くの」
それは短く滑らかな弧を描き、止まり、そしてまた弧を描き、始点へと繋がった。
「・・・・・ハート?」
そう聞くと、その人はまた微笑んで、ゆっくりと頷いた。
そして、指先は同じ動きを何度も何度も繰り返す。
「悲しいことがあったら、これを繰り返せばいいの」
「どうして?」
「ハートは、愛情を表す記号だから。これを書けば、”私はあなたを愛してる”って伝えることになる」
「・・・・・・愛、情・・・」
「安心するまで、繰り返して。そして―――」
「大切な人が泣いていたら、これを教えてあげるの」。
脳裏に何かが蘇る。
そうだ、これは・・・・・・
母さん。
母さんが、小さい頃に教えてくれたおまじない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 147