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何も知らない
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「アイル…っ!」
「え、あ、…」
ぎゅう、と女の子に抱きつかれる。
その子は泣いていた。
理由が分からない、けど、たぶん俺の知り合いなんだろう。
シェスの方をちらりと見ると、「アイルの友達だ」と言われた。
*
―3時間前
目覚めて、ここはどこなんだっけ?とぼやけた頭で考えていた。そうしたら、「おはよう」と声をかけられたんだ。
声をかけてきた青年は…そう、俺を助け出してくれた人。逃げられなくて、逃げ場もなくて諦めていたところを、助けてくれた。俺の恩人。
「…あの…」
「ん?」
優しく微笑みかけてくれた。
…やっぱり、カッコいいな…
「助けてくれて…ありがとう…」
「どういたしまして。アイルを取り戻せて良かったよ」
そして、どうやらこの青年は俺の知り合いだってことが分かった。どういう関係だったのかな…?
それに、此処はどこなんだろう。
「…えっと…」
「此処は巫女が住む宮殿。しかも最深部。アイルは巫女だったんだ」
「あ…そう、なんだ」
質問するより先に、答えをもらってしまった。心が読めるのかな。
そのまま、青年は話し始めた。
青年の名前はシェス。俺はなんと、この国の王子らしい。でも出生が複雑のようで、男なのに巫女として宮殿で暮らしていた…その経緯については、シェスは「知らない」って。
シェスと俺は、守り守られる関係、らしい。だから、俺が此処からあの地獄のような場所に拐われたとき、とても後悔した、って言われた。
「…守れなくて、ごめんな」
「え、いいよ…だって助けにきてくれたし」
「…そう」
むにむにと頬をつつかれる。
くすぐったい。
…守り守られる関係って、どういうものなんだろう…
だって、助けてくれたとき、その…キ、キス…されたし…ただの巫女と騎士の関係、なのかな。
あ、でも、あれは薬飲ませるためであって…きっと他意はないよな、うん。
「無事でよかった」
「…っ」
キラキラの笑顔を向けられて、顔に熱が集まった。
*
「アイルっ、ごめんね!私が…私があんなところに一人にしたから…だから、拐われたんだわ。もう、会えないかと思った…っ」
「お、落ち着いて…?」
綺麗な瞳から涙が溢れてくる。
そんなに溢したら、目が溶けてしまうんじゃないだろうか。
「このお嬢様が色々と援助してくれたんだ」
「そうなんだ…ありがとう。…えーっと…」
「私の名前は、シルヴァーナ・デルランジェ。シルヴィでいいわ。アイルはそう呼んでたの」
「ありがとう、シルヴィ」
「ううん、いいの…それぐらいで罪滅ぼしになるかは分からないけど…」
シルヴィは、しゅん、と項垂れてしまった。
後から聞いた話だと、シルヴィは本当に頑張ってくれたらしい。俺の捜索隊を編成するために、父親に直談判してくれたらしい。本来、巫女一人を捜索するために大掛かりなものは編成しないらしいのに、シルヴィが頑張ってくれたおかげで早くに俺の居場所が分かったんだって。
俺が今ここに居られるのは、シルヴィの嘆願と、先頭切って探し当ててくれたシェスのおかげなんだなって思った。
「…」
だからこそ、思い出したい。
「俺」を想ってくれた二人のことを、すべて。
…なのに、思い出そうとすればするほど、遠ざかっていくような気がするんだ。
診てくれた医師が言うには、思い出したくないことがあるんじゃないか、ということらしい…拐われる前に、この二人と何かあったのかな。でも、俺のことこんなに必死に探して、見つかったら安堵してくれたんだ。きっと、他に原因がある。薬の副作用化もしれない。
…早く、思い出したいな…
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